表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
用無し女の奮闘生活  作者: シロツメ
無謀な奪還の章
71/174

出る杭は打たれるもの(3)

 「おーい!そろそろ流氷がでかくなってきたから、避けながら進むぞ!海に落っこちたくなかったら、部屋に入ってろー!」

トリフさんの声が聞こえた。ちょうど寒くなってきたところだ。私はぽっちゃり大臣と甲板を下りた。

「スカルで雷、見れるといいですね?」

「そうだな。恐ろしい気もするが、私だけ見たことが無いのは何となく腹が立つ」

彼はそう言ってこぶしを握り締めた。やっぱり見たかったんだ。

「あ、それから私、雪国なら見れるかなあって、他にも期待してるものがあるんですよ」

「ほう、珍しいものなのか?」

「ええ、私の世界でもかなり寒い国まで行かなきゃならないんで、実際に見たことはないんですけどね。オーロラっていう、夜空に赤とか緑の光のカーテンができる現象です。雷は衝撃的って感じですけど、オーロラは幻想的ですよ」

オーロラは確か、北極や南極に近くないと中々見れなかったと思う。この世界の規模が地球と比べてどの程度なのかは知らないけれど、1年のほとんどが雪に覆われているというスカルなら、緯度は高い方なんじゃないだろうか。ごくまれに北海道で観測されたこともあると聞いたことがあるから、発生する条件が合えば見れるかもしれない。

「光のカーテンとな。うむ、良いではないか。夜空の星より幻想的なものがあるとは」

「星空にオーロラがかかったら最強ですよ。あ、それとオーロラとは関係ないんですけど、雪国のうさぎって雪を保護色にするから真っ白なんですよ。白いふわふわうさぎはディクシャールさんと違って、きっと可愛いでしょうねえ」

「なんと!私は灰色と茶色しか見たことがないぞ!可愛いのか?可愛いのか!」

この旅は、暗くて辛い、危険なものだ。ずっとそんな重たい感情を引きずったままいるのは、正直疲れる。スカルでオーロラやうさぎを悠長に見ていく暇があるとは思えないけど、心の中だけでも明るいことを考えていたい。この手の話に乗ってきやすいぽっちゃり大臣の、可愛いものを何でもかんでもでる変態チックな思想にも、今ではすっかり慣れてしまった。







 「これが俺の故郷の味だ」

今日の夕食はトリフさん中心で作った、トーヤン料理だ。魚醤ぎょしょうという、魚介をベースにした癖のある調味料を、彼は船に持ち込んでいた。日本でも地方によっては使われているが、私にとってはタイのナンプラーと言った方が馴染み深い。熱帯系のトーヤンではこの魚醤が故郷の味らしい。

「うわあ、懐かしい味」

「だろ?だろ?やっぱり故郷の味は良いもんだ」

私は昔タイ料理にハマった時の事を思い出して言ったのだが、召喚のことをまだ知らないトリフさんは、ちょっと勘違いして聞き取った。他のトーヤン人のおじさん達は上機嫌で食べている。

「変わってるけど美味しいわ。世界には色んな味があるのね。エンダストリアはけっこうワンパターンな味付けだから、店のメニューが少ないのよ。特にネスルズの男って、食事は燃料補給みたいに考えてる人が多いから、こっちは作ってても楽しくないのよね」

食堂経営者の目線で感想を言ったのはリリーだった。楽しくないと言われたネスルズの男性陣は、黙々と食べている。夢中な様子から、彼らもトーヤン料理が気に入ったようだ。

「そのネスルズの男達が今、夢中で食べてるから、一応美味しいものは美味しいって思うんでしょう?じゃあリリーの店から食文化改革してみたら?」

「それ、面白そうだな。やるなら俺に言ってくれ。ネスルズじゃ使われてないたぐいの調味料、仕入れてやるよ」

「そう?改革なんて言葉を使うには、食堂のメニューじゃちょっと地味だけど、やってみようかしら。最初はお客さんの口に合うように工夫しなきゃね。サヤも協力してくれる?トーフを使ったメニューも色々開発したいし」

「勿論。さっきから食べてばっかりの男達を、実験台にしてね」

リリーはやる気になったようである。こうやって個人間で少しずつ理解を深めていっていれば、スカルとエンダストリアも上手くいっていたのだろうか。ぽっちゃり大臣からの又聞またぎきだから、それだけで全て解決していたとは言えないけれど、ご近所付き合いも大事なんだな。

 「明日にはスカル地方に上陸できるぜ」

夕食が終わった後、トリフさんが言った。いよいよフォンスさんの故郷に入る。彼の生まれた地に興味が湧く一方、ネスルズにあまり良い印象を持っていないだろうスカルで、何も起こらなければいいが、という不安もあった。

「トリードさん、あんたスカルに着いたらどうするですかい?帰るなら俺達と一緒でしょう。一端降りるなら、少しくらいは待てますけどね」

トリフさんに聞かれてぽっちゃり大臣は少し考えた。

「そうだな、一端降りるには降りる。ネスルズとスカルはあまり良い関係ではないからな。現地の者と問題が起こった時は、私が責任者として話をつける」

「了解」

 今更緊張してきた。こんな大掛かりでややこしい旅なのに、我ながらよく一人で行こうとしたものだ。無知って怖い。でも自分が納得いくところまでぶつかっていくしかない。

 なるようになれ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ