表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
用無し女の奮闘生活  作者: シロツメ
無謀な奪還の章
63/174

旅立ちの前はバタつくもの(1)

 旅立ちの早朝。私はリリーに借りたままだった服を返しに、彼女の食堂へ来ていた。

 とりあえず色々世話になったことだし、ここを出る前に軽く挨拶でもしておこうと思ったのだが、すんなり行かせてはもらえなかった。

「エンダストリアを出るって…急にどうしたの?」

召喚のこともスタンガンのことも、何も知らない彼女に、どこまで話して良いものやら分からなかったから、はぐらかすことにした。

「うん、まあ…ちょっとね。色々あって……」

はっきり言わない私に、リリーは怪訝けげんそうな顔をした。

「何か隠してるわね。ダントールさんはまだ戻ってないんでしょう?黙って出ていくつもり?」

「ああ、そう!フォンスさんを迎えに行くのよ。帰りが遅いから…」

「独りで?」

リリーの顔が怒っている。こういう時はトニーと同じ顔になるんだな。

 顔のことに気を取られて、私は特に何も考えずに「ええ、独りで…」と言ってしまった。途端にリリーが詰め寄る。

「あなたねえ、一般人の、しかも女が独りで戦地にいる司令官を迎えに行くことが、どれだけ不自然か分かってる?」

しまった、と思った時は遅かった。逃げようにも、彼女は私の手をガッシリつかんで離さない。

「白状しなさいよ」

「リリーちゃん、顔が怖いわよ」

「ふざけないで!」

リリーの剣幕に、他の従業員達も集まってきた。

 ああ、私の馬鹿……

「聞いてどうするのよ?」

こういう時は開き直るしかない。

「聞いてから決める」

抵抗もむなしく即答されて、私は諦めて事情を話すことにした。

「…こないだ私を襲った指名手配犯、フォンスさんと接触したらしいの。それでフォンスさんはアメリスタに入ったらしいんだけど…残った部下達への気遣いを考えても、エンダストリアを裏切ったとは思えない。でも軍の人達は疑いたくなくても下手に動けない。だから私が勝手に迎えに行くのよ」

簡単な私の説明を聞いて、リリーは少し考え込んでいたが、やがて「ちょっと待ってて」と言って席を立った。

 待つのは良いが、さっきから従業員達の「ええ?」とか「そんなっ!」とか「店はどうするんですか!?」とか「無謀ですよお!」とか…嫌な予感のする声が、店の奥から聞こえてくる。

 リリーが出て来る前に行ってしまおうかと、腰を浮かしかけた時、彼女は出て来た。

「お待たせ」

「お、お待たせって…何その格好」

大きなリュックを背負って、旅仕度たびじたく万端ばんたんだ。後ろからやや泣きそうな従業員達が続いて出て来る。

「まさか一緒に行く気?命の保障もない、行き当たりばったりの旅なのよ?それに皆納得してないみたいじゃない」

「私…、ずっとダントールさんのこと好きだったけど、遠くから見つめたり、コソコソ情報集めたりするだけで、何も積極的に行動して来なかったの……」

いやいや、十分ストー…積極的だったと思うぞ。

「今度こそ、彼のために動きたいの。これで最後にする…。これで駄目だったら諦める。命の保障なんていらない。命かけて行動しても駄目だったら、諦められる!だから私にもチャンスをちょうだい?恋敵ライバルのあなたに言うのは可笑おかしいかもしれないけれど、同じ人に惚れてるなら、私の気持ち、わかるでしょう…?」

リリーは切羽詰まった目をして言った。王宮で啖呵たんかを切った私と同じ目。

「…わ…かる…」

何だ、独りだと思っていたら、こんな所に仲間がいた。今はフォンスさんと会って、直接真意を聞くのが最優先事項。恋敵ライバルだのどっちを選ぶだの、この際どうでもいい。独りで強がっていても、私…本当は同じこころざしの仲間が欲しかったんだ。

 「行ってきなよ、リリーさん」

ぼそりと、トニーが重体の時に水をくれた従業員が、あの時と同じように言った。他の従業員が、「ちょっとあんたまでそんなこと…」とびっくりしているのを尻目に、彼は更に続けた。

「リリーさんが言い出したら聞かないことくらい、よく分かってるさ。どれだけあの司令官さんに惚れてたかもな。これで最後にするって自分で決めたんなら、行ってきなよ。別にちょっとでも無理って思ったら帰って来ていいんだぜ?そん時ゃあ、俺が貰ってやっからさ」

ヒューヒューッと思わず口笛を吹きたくなった。でもここで冷やかしたら、私はリリーから延々と恨まれそうなので我慢した。

 リリーは一瞬ポカンとしていたが、徐々に顔が赤くなると、ワタワタと慌て出した。

「なっ、何てこと言うのよ!途中で投げ出したりなんか、絶対しないんだから!」

どうやら猪女は直行しか出来ないからか、横からの不意打ちには弱いらしい。でもリリーでなくても、今のは私もちょっとぐっと来たな。

「はいはい、成就じょうじゅしても、玉砕しても、生きて帰って来いよ」

彼は自分の言葉に対してリリーが何と言い返すのか、お見通しだとでも言わんばかりだ。

「あなた、何て名前か聞いていい?」

このナイスガイを、ただの水をくれた従業員とだけ認識するのは忍びない。

「サーヤルだ」

「ぷっ、私と似たような名前ね?」

「そうだな。だからあんたも、妙にリリーさんの扱いが上手いんじゃないか?」

何とも可笑おかしな奇遇だ。待っていてくれる人がいるということは、リリーにストーカー行為を上回る人徳があるということ。根はいい子と思った私の目に狂いはなかった。

 こうして私は仲間を手に入れ、バリオスさんとの待ち合わせ場所に向かったのであった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ