表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
用無し女の奮闘生活  作者: シロツメ
裏切りと暗殺の章
60/174

いない人を信じるのは辛いもの(5)

 フォンスさんの帰りが遅れているらしい。今回は長いなあとは思っていたが、実際の予定はいつもと変わらない日数だったそうだ。ディクシャールさんが私の部屋に来てそう言った。

「私が王宮に移ってから5日、もうフォンスさんが出兵してから1週間以上ですね」

「ああ、今第3隊の何人かに様子を見に行かせている。明日には状況が分かるだろう」

携帯に慣れた私にとって、この世界の報連相ほうれんそうのゆったり感は、かなりもどかしいものだった。無いものに文句を言っても仕方がないのは分かっている。普段ならいい。仕事中でも毎日声が聞きたいなんて言うことはしないし思わない。でも何かあったのではないかと、こうやって不安なまま過ごすのが、とても苦痛だった。

「お前は不安だろうな。だが、もし命に関わるようなことがあれば、逆に早く引き上げてくるはずだ。遅れているということは、無事だが何かに手間取っているという可能性が高い」

「本当?無事ならいいのだけど……」

「当たり前だ。あいつは俺が化け物かとまで思った男だぞ?4人の司令官の中で、一番生き残りそうな奴だ」

ディクシャールさんが私を励まそうとしているのが分かった。それはそうだろう。いつも憎まれ口を叩く奴が、急にしょぼくれたらやりにくいに決まっている。とにかく私は明日の情報が入るまで平然をよそおった方が良いようだ。

 「話は変わりますけど、ここ3日ほど、バリオスさんが来ました」

「そうなのか。最近防御壁を部下に任せて見当たらないと思っていたが、お前のところの来ていたんだな」

「え、もしかしてあの人、無断で行動してたんですか?」

それはマズイだろう、王宮で上の者がどこに行ったのか分からなくなるというのは。

「厳密に言えば無断だが、バリオス殿はいつものことだ。それに今まで関係のないところでサボっていたことなど無いからな。何か考えがあるものだと思って、大抵大まかな指示を出した後は、好きにさせている」

「信用されていると言っていいのか、野放しにされていると言っていいのか……」

「良い意味の方に取ってくれ」

「はあ、そうですか。まあ、本当に遊びで来たわけじゃなかったんですけどね。半分は趣味も入ってるでしょうが」

ディクシャールさんは「やっぱりそうだろう?」と満足げに笑った。

「バリオス殿の良い所は、趣味と仕事と立場が一致している所だ」

「確かに言えてます。スタンガン対策用の防具を2つほど作ってました」

「ほう?それでどうだったんだ?」

興味深そうに聞かれたが、彼の失敗談をそのまま話すのは可哀想だ。ナイーブなオッサンだから、自虐ネタとして笑い飛ばせるような人じゃない。

「…えっと、盾タイプのものを作りたかったみたいなんですけど、私の説明不足と意思疎通がイマイチ上手くいかなくて、逆に電気を吸い寄せちゃうかもよ的なやつと、柔らかくて盾になんないじゃん的なやつを完成させました」

「…随分と言葉を選んだような言い方だが…要は失敗か?」

ううっ、バレバレか。そういえばディクシャールさんは、人の本性見透かすのが得意な鋭い人だった。

「お願いですから、"失敗"とは言わないでやってください。後々面倒です」

「分かっている、打たれ弱いことくらい。そんなことは本人には言わん」

それなら安心だ。…ん?打たれ弱いと分かっている?……思い出した!

 「そういえば、バリオスさんに色々吹き込んだらしいですね?」

「何の話だ?」

「自殺未遂がバレてから、女性と仲良くなる方法を伝授されたって言ってましたよ。"身体は正直だ"とか、"嫌よ嫌よも好きの内"とか。思いっっっ切り使い方間違ってました」

恨みがましい目で言ったら、その途端ディクシャールさんは大口を開けて笑い出した。

「ガッハッハッハッハ!!お前に使ったのか、それを!生意気な小娘に使ったところで逆効果だぞ!ハーッハッハッハッハッ…」

「そういう間違いじゃありません!電気を通しにくい物を聞かれて、あやふやな知識だからって断ったら"そんなこと言っても身体は正直だ"って言われたんです!聞けばあなたに渋る女にはこう言えって言われたって…。一体どんな伝授の仕方をしたんですか?正しく伝わってませんよ」

「ハッハッハ…腹がよじれる…。はあー、どんな伝授って、女に拒否られたらどうしたらいいか、なんぞと消極的なことを言うもんだから、渋られたらそう言えと教えたんだ。押しに弱い女は多いぞ、とな」

押しに弱い女は多いが、ネタが古すぎる。それにバリオスさんの雰囲気で言われたら、違和感ありまくりなのが分からないのだろうか、このうさぎは。

「まあまあ、そう膨れるな。お前が被害に遭ったことは悪かったが、バリオス殿と正確な意思疎通をするのが実は難しいことくらい、気づいているだろう?クックックッ…」

「ええ、それは分かってます。ただ実際言われたら、かなり精神的ダメージを食らうんで、もうちょっと別の方法を教え直しておいてください……」

私は生ぬるい目で性悪うさぎを見ながら、壁に手をついてヒーヒー笑う彼が治まるのを待った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ