表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
用無し女の奮闘生活  作者: シロツメ
裏切りと暗殺の章
57/174

いない人を信じるのは辛いもの(2)

 「…話を戻すぞ。キートの持っていたスタンガンは、壊れたんだな?」

ディクシャールさんは治療術師が出て行った後、決まり悪そうに切り出した。

「ええ、本人が確認してました。電気製品は、水で濡れた状態で電源をつけたら、その瞬間に壊れるんです。水は電気を通すんで、もし壊れてなかったら、濡れたスタンガンから手に電気が流れて、今頃あいつは死んでますよ」

以前携帯をトイレに落とした時、一緒にいた友達が言っていた。水に落としたら、絶対電源をつけちゃ駄目だって。カバーを空けて完全に中が乾いてからつけると、まれに直ることもあるらしく、その前に電気を流すと、そんなわずかな望みをかける間もなく一瞬でお陀仏だぶつだそうだ。まあ、その通りにしてしばらくは復活したけれど、素人判断で完全に直ったわけじゃないから、結局買い換える羽目になったが。

 「そうか。水はデンキの弱点であり、同時に被害を広めるものでもあると……」

「うーん…その発想が正しいのかはよく分かりませんけど。とりあえずスタンガンは水につけると壊れるけど、油断して濡れたそれに触れない方がいいってことです」

「何とも厄介なものだな、デンキというのは。お前の世界にはそんなものが溢れているのか?」

「ここでの使われ方が厄介なだけで、正しく使えば便利ですよ。そのために分厚い取り扱い説明書と注意書きが付いてきますから」

ディクシャールさんは「分厚い説明書を読まなきゃ危険ってことだろ…」とうんざりした顔で言った。便利なら説明書くらい読もうとは思わないのだろうか。価値観の違いというやつか。

「まあまあ、電気批判はそれくらいにして。ルイージは異界のことを知っていました。多分アメリスタの技術は、200年前に召喚された人のものを応用していると思います。そして電気のことが広まると困ると」

「そうだろうな。深い知識はないとは言え、お前の知っていることでこちらに対策を取らせたくないのだろう。壊れているのに、きっちりスタンガンは回収していきやがったことだしな」

やっぱり持ち帰ったのか。間抜けついでに置いて行ってくれてたら…と思っていたのだが。そんなに甘くはなかった。

「とりあえず、今回のことをコートル司令官長に報告して来る。まだ日は高いが、お前はもう休め。治療魔術は回復のために体力を使うからな」

ディクシャールさんはそう言って、フッと笑った。

「…そういうところをさっきツンデレって言ったんですよ」

思わぬタイミングで性悪うさぎの優しげな初微笑みを見て、私は話を蒸し返した。

「あのなあ…」

「むぐっ」

今度は怒る気配もなく、ディクシャールさんは私の鼻をつまんだ。

「惚れてはいないが、これでも見直しはしたんだ。ギャンギャン怒る割りに、冷静に考えることもできるみたいだし、勝手に召喚した俺達に協力もしてくれている。はっきり言って、第3隊襲撃の件はお前なしじゃ解決しなかった。危険にさらされたお前にとっちゃあ迷惑かもしれんが、今は役立たずなんて思っちゃいない。救世主でもない。協力者…いや、仲間、かな」

「…わだじは、ひづようどざれでるっでずか?」

ヤバイ。性悪うさぎのセリフにまぶたが熱くなる日が来ようとは…。

「ハハッ。何を言ってるか分からんぞ」

彼は私の鼻をぐいっと持ち上げると、指を離した。

「行くぞ、ヴァーレイ」

「はい」

「ねえ!」

トニーをともなって出て行くその大きな背中を呼び止めた。

「私は…ここで必要とされてると、思っていいんですか?」

ディクシャールさんは、ニカッと性悪そうな笑みを浮かべて振り返り、親指を立てた。

 そうか、私はここで…







 翌日の朝、リリーが見舞いに訪れた。とりあえずの日用品と、着替えを持ってきてくれたのだ。フォンスさんの家に勝手に入るのは気が引けたようで、自分のものを貸してくれると言う。

 着てみると、上の服が若干ゆるい。胸の辺りがスカスカだ。いやいや、貫筒衣かんとういなんてフリーサイズみたいなもんだろう。きっと身長が違うせいだ。リリーの方が高いもの。断じて私の胸の問題ではない。

「ああ、昨日のことだけど」

私の葛藤には気づかないリリーは話を始めた。

「どうやらトニーは、サヤのこと好きかもしれない」

「へ?」

一瞬聞き間違いかと思った。リリーは少し困った顔をしている。

「へ、じゃないわよ。恋愛に関しての好き、よ?」

「分かってるわ、そんなこと。でもどこからそんな話が出てきたのよ」

「昨日のあの子の態度よ。サヤ、戸惑ってたでしょ?実はその前にあなたが気を失っている時、不細工になったあなたを見た瞬間の取り乱しようが気になって…。これは勘よ?本人に聞いたわけじゃないわ。今まで何か気づいたことなかった?」

今日も不細工を入れてくるか、こいつ。いやそれどころじゃなかった。トニーの話だ。

「うーん、これまでにちょっと気になる態度の時はあったけど…エンダストリアでは普通なのかなって思ってた」

「気になるってどんな?」

「おでこにチューとか。ふざけてだけど」

「親子じゃあるまいし、普通ないわよ」

「スキンシップも多いかなあ。何回か抱きしめられた」

「……」

そこまで聞いてリリーは無言で目を細めた。そしてため息をつくと、うんうんと2回頷いた。

「分かったわ。まああなたの気持ちは知ってるし、恋敵ライバルとは言え友達だから、弟を押し付けようなんて思ってないけど、今までけっこうアピールされてるわよ?」

「ええ?何で私なの?惚れられるようなことしてないのに。年上に憧れる年頃なのかな」

「私に聞かれても分かんないわよ」

 謎だ。トニーには素を見せている。素の私に惚れる要素なんてどこにある?自分で言うのもなんだが、かなりキツイ性格だぞ。さっきは思いっきりディクシャールさんとの喧嘩見せちゃったし。はっきりフォンスさんが好きと言ったことはないけど、かなり信頼している態度も見せている。それでも好きというなら、茨の道を突き進むようなものだ。ん?突き進む…やっぱり姉弟か…。

「それで、どうしろと?」

「これでトニーのこと気になって、気持ちが移ってくれたらラッキーかなって」

「…さっき弟を押し付けようとは思ってないって言ったばっかよね?」

「だから、無理矢理くっつけようとは思ってないってことよ。あくまでも可能性の問題。あの子がサヤに好意を持ってることは確実だけど、どこまで惚れてるのかは分からないしね。あなたの方からどうこうしろなんて言わないわ」

勝手なことを言ってくれる。まあリリーの気持ちは分からんでもない。私も彼女の立場なら同じことを考えるだろうから。

 トニー、私に惚れると火傷するぜっ!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ