同情は重いもの(6)
フォンスさんが出兵中のある日のこと。今日は誰も来る予定はないのに、玄関の扉がノックされた。
「はい…どちら様?」
ちょっと不安だから、開けずに声をかけた。
「…サヤ、あの、僕……」
「僕?」
トニーの声だ。彼とは私が異界人だってバレた日から、まだ一度も会っていない。気まずいことは時間を置くと、どんどんまずくなっていくから、早めに会って話をしたいと思っていたが、私が外に出られなくなってしまって、まだそれは叶わないままだった。
「あ、うん…僕」
瞬間的に私の中に、悪戯心が芽生えた。
「僕なんて名前の人、知りません」
「ええっ?いやいや僕だよ、サヤ」
「最近そうやって家族や知り合いを装う詐欺が増えてるんで、開けれません」
「サヤ!僕だってば、僕僕っ!」
トニーはちゃんと名乗ればいいのに、焦って"僕"ばかりを繰り返す。あまりにもお約束通りに引っ掛かってくれるから、こっちは可笑しくてたまらない。
「じゃあ僕僕さん、今日はどんなトラブルに巻き込まれて、いくら必要なんですか?」
「い、いくらって…、サヤ?笑い声が聞こえるけど?」
玄関を背に、堪え切れずクスクス笑っているのが聞こえてしまったらしい。向こう側でトニーのため息が聞こえた。
「こんにちは、僕僕さん」
扉を開けると、苦笑したトニーがいた。今日は私服を着ている。休みなのだろうか。
「勘弁してくれよ。本気で焦ったじゃないか」
「一言名前を言えば良かったのに。日本じゃ本当にそういう詐欺が多いから門前払いよ」
「僕って言うのがかい?」
当然知らない彼は、不思議そうに首を傾げた。やっぱり相変わらず可愛い。
「"俺俺詐欺"って言ってね、お年寄りとかに声だけで息子とか孫を装って、"俺だよ俺!"って言うの。相手が"ああ、あいつか…"って勘違いしたら、"トラブルに巻き込まれてお金がいる"とか何とか言って騙すのよ。日本ではそういう詐欺が増えてるから、名乗らずに"俺!俺!"って言ったら詐欺師と間違われちゃうわよ」
「へえ、前にここを掃除した時も何か言ってたけど、サヤの故郷って面白いね」
「そう?トニーならあちこちで騙されそうだから、心配で一人にできなさそうだわ」
トニーは「酷いなあ」と言いながら家の中に入った。
お茶を出して一息つくと、私から話を切り出した。
「あのね、トニー…。この前は、ありがとね?」
「え?いや、お礼を言われるようなことなんてしてないだろ。僕が君の気持ちを考えずに勝手なこと言っただけで…。だから、今日は仲直りしに来たんだ」
「私もずっとトニーと気まずい雰囲気で終わったままは嫌だったから、会って話さなきゃって思ってたわ。あれは、私の八つ当たり。表に出さないようにしてた私の本音をあなた言にい当てられて、ちょっと混乱してたの。八つ当たりだって気付いてたのに、口が止まらなくて…酷い態度取っちゃったわよね?後で考えたら、本当は私のために腹を立ててくれてありがとう、って言わなきゃいけなかったなって思ったの」
トニーと私は長年の友達というわけではない。それなのに、他人である私のために怒ってくれるような友達となってくれた彼に、感謝しなければいけないはずだった。それが大人の付き合い方だと思った。
「僕の言い方が悪かったんだよ。サヤは…何て言うか、たまに考え方が大人っぽいよね。僕が餓鬼っぽいだけかな…?」
いやあ、10歳以上も離れてたら当然私が大人にならなきゃいけないんだが。でも、今更サバ読んでました、なんて言えねえ…。特に今のこの雰囲気で言ったら、空気が白くなること間違いない。せっかく穏やかな良い雰囲気なのに。
「やだ、トニーったら。私の方がお姉さんなんだから当たり前じゃない」
引きつりそうになる表情筋を必死で抑えつつ、平然を装って無難な答えを返した。
「そうだな。君の方が年上だけど、頼ってもらえるような男になりたいんだ」
「ちゃんと頼りにしてるわ。フォンスさんが期待してるって言う人だもん」
そう、天然天使でもエリート候補なのだ。その辺の男よりは遥かに頼りになるだろう。
「そっか。じゃあ、狙われるから関わらない方がいいとか、もう言わないでくれよ?びっくりして心臓止まるかと思ったんだからな」
「大袈裟ねえ。でももう言わないわ。ずっと家の中で暇だったから、ここでの数少ない友達が減るなんて惜しくなっちゃったの」
お互いに噴き出して笑ったら、私とトニーの間に流れる雰囲気は、すっかり元通りになった。
その日の夜。
最近はもうすっかりルイージの夢はお笑い系になっていた。いつも水玉キノコやでっかい星を持って出て来るのだ。ちっとも怖くない。でもフォンスさんは、家にいる時は何も言わずにそのまま一緒に寝てくれるから、私もこれ幸と、何も言わないでいる。
今日は静かな夜だ。元の世界と比べたらいつも静かだが、今夜は風まで息を潜めたかのように、しん…としていた。こんな気味の悪い日は早く寝るに限る。
ベッドに入ろうとしたその時、昼間のようにまた玄関がノックされた。
「こんな夜に誰だろう…。フォンスさんはまだ帰る予定じゃないはずだし。開けるべきなのかな」
とりあえず様子を見に玄関まで降りる。その間も一定の間隔で、コンコンコン……、コンコンコン……、と私を急かすようにノックが続いた。
玄関扉の前まで来て、ふとこのまま開けずにずっと放ったらかしていたらどうなるのだろうと思った。
「……」
コンコンコン…
「……」
コンコンコン…
「……」
コンコンコン…
「……」
カチカチカチカチ…
「ん?」
ガチャリ…
「ええっ?」
ひたすら無言で見ていたら、途中でノックの音が不可解な音に変わり、最後には鍵が空いた。
「ちょ、ちょっと待って!何で外から鍵が開くのよっ?」
私の制止する声を完全にスルーして、キィ…っと甲高い音を立てながら扉が開きかけた。私は咄嗟に扉のすぐ横の壁に、背中を付けて隠れた。
扉が開き切り、床に黒い影が音もなく入ってきた。緊張で否が応でも鼻息が荒くなる。仕方がないから息を止めて、影の主が見えるまで待った。
「とおりゃっ!」
気合いを入れた掛け声と共に、私は夜中の不届きな侵入者へ向かって肩から突撃した。
「…あ、れ?」
思ったほどの衝撃もなく、ポスッと受け止められた感覚があった。
「熱烈な歓迎、ありがとう。でも2度目の体当たりは通用しないよ」
聞き覚えのある、聞きたくない声が頭の上からした。
蟻の触角ほども歓迎したくない奴が、既視感を感じる恰好で私の腰を抱いていた。
どのキャラが人気なのか知りたいというメッセージをいただきましたので、だいたいですが、現時点での人気ランキングをご紹介します。
1位…トニー
可愛い、意外な男らしさがある等の理由でトップ独走中。
2位…フォンス
落ち着いた感じが良い、サヤとの穏やかなやり取りが好き等の理由で地道に票を獲得。
3位…沙弥
淡々とした性格が好き、自分と重ねられる等でぼちぼち人気。
4位…性悪うさぎ
サヤとの掛け合いが面白い等でじわじわ追い上げ中。
5位…ぽっちゃり大臣
最近の男っぷりがいい、金銭面が魅力等で意外と少数派ながらファンあり。
6位…コートル
ナイスミドルということで、登場回数が少ないながらも健闘中。
無投票…バリオス、リリー、ルイ、トリフ
隠れファンの方、いたら入れてあげて下さい。
以上です。いかがでしたでしょうか?
今後ランキングが変わったらまた発表したいと思います。