馴れ馴れしい奴ほど怪しいもの(4)
「第3隊は、諜報活動を主とした、少数精鋭の部隊だ。少数もしくは単独での行動に長けているため、戦争となれば今回のような奇襲任務も下ることがある。まあ、エンダストリアは長らく平和だったからな。本格的に第3隊が活動しだしたのは、アメリスタに不穏な動きが見られるようになってからだが」
教えてくれたのはコートルさんだった。
「少数精鋭の諜報活動って…トニーは優秀だったんですね」
我が心のオアシスの天然天使トニーと、スパイというエリートなイメージが全然結びつかない。失礼な話だけど。
「今回怪我をしたヴァーレイか。確か下級兵士だったな。それなら優秀というより、まだそうなる可能性を見ている段階だ。第3隊が諜報部隊だという事実は公にはされていない。ただ、訓練が他より厳しいという噂は皆知っている。それ故自ら志願する者は少ない。ヴァーレイはその少ない奇特な奴の一人だ。ダントールの跡を辿りたいと言ってな。それでも、志願したとて全く才能が見られない者は入れないが。そういう意味では、将来ヴァーレイが優秀と認められる可能性は高いと言える」
「フォンスさんの跡を辿る?」
トニーが実はエリート候補だったことにはびっくりした。そして、跡を辿るということは、フォンスさんも昔は第3隊だったのだろうか。
「ダントールは第3隊出身だ。儂がそこの隊長だった時代のな」
「サヤ、今住んでいる家を譲ってくれた隊長というのが、このコートル司令官長なんだ」
そういうことだったのか。じゃあバター入りの柔らかいパンを、フォンスさんに食べさせたのもコートルさんかな。ナイスミドルは面倒見が良いらしい。
「どうも、あの家を使わせてもらって助かってます」
とりあえず頭を下げておいた。
「なあに、使わん別荘を昇格祝いにくれてやっただけだ。隊長になっても家を持たず、いつまでも下っ端と共に王宮の宿舎で寝泊まりしていたのは、ダントールくらいだったからな。最近までまた宿舎に戻っていたようだが、再び役に立っているのだな」
コートルさんはそう言って、また口髭を一撫で。自慢の髭なのだろう。綺麗に手入れされいて、毛並みも艶々だ。
「さて、話を戻すか。誰も犯人を見ていないのが納得いかぬのだったな?それは今回の作戦が、司令官と隊長合わせてたった17人の編成で行い、国境にいるアメリスタ兵に見つからぬよう単独で木や草の影に隠れ、壁が解かれた瞬間、一斉に仕掛ける手筈だったからだ。お互い仲間の場所は分かっていても、姿までは見えにくい状況だ」
なるほど。ということは、刺されたトニーはすぐに見つけてもらえただけ運が良かったのか。これが任務を終えて引き返す頃まで気付かれなかったら、今頃トニーは生きていなかったのかもしれない。
「あの、その時トニーは防具をつけてなかったんですか?」
これも冷静になった時にちょっと気になったことだ。いつも腹部まである鎧を着ているのに、肝心な時にあっさり刺されちゃうなんて、どんだけ役立たずな鎧だよ、と思っていたのだ。
「草木に隠れる時、鎧をつけていればガチャガチャうるさくて邪魔だ。隠れる意味がない。それに国境へ行くまで、いくつかの村を通らねばならん。王宮のあるネスルズとは違い、鎧をつけた兵士が17人も連れだって歩くとかなり目立つ。いたずらに民の不安を煽ってしまうことも配慮して、一般国民と同じ服装で任務を行ったのだ」
「そうなんですか。てっきりナイフをすんなり通しちゃうような鎧かと…」
「そのような粗悪品が軍に出回ることはありません!」
私の呟きを、バリオスさんが遮った。
「最新の魔術を駆使して取り出した、純度の高い鉄を使用しております!最高級の素材なんですよ!」
魔術がらみの製造方法だからバリオスさんが食いついてきたのか。この話題は早く終わらせないと、めんどくさいことになりそうだ。
「はいはい、分かりました。その最新の魔術もバリオスさんが開発したんですねー。じゃあ相当頑丈ですよねー」
「その通りです!」
胸を張るバリオスさんに少々疲れを感じたのだった。