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用無し女の奮闘生活  作者: シロツメ
裏切りと暗殺の章
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年下の扱いは難しいもの(5)

 トニーが治療室に運び込まれてから2日が経った。点滴のないこの国では、意識不明が何日も続くと危険だ。

 重い足取りで今日も私とリリーはトニーを見舞った。

「もうそろそろ目を覚まさないと、このまま衰弱死しちゃうって……」

リリーは先程術師から聞いた診断を、噛み締めるように呟いた。

 トニーの顔は青白いけど、リリーとは対象的に表情は穏やかで、それが妙に憎たらしく見えた。

「起きろっ!トニー!」

言いながら私は彼の額を弾いた。でも無反応。

「こらっ!聞いてるの?!」

もう一度額を弾いた。まだ無反応。

「ち、ちょっとサヤ、何してるの?!」

慌ててリリーが止めに入ったが、私はやめなかった。

「こんなに心配してるのに、いつまでも寝てるんじゃないっ!えいっ、えいっ、えいっ!」

ピンピンピンッと連続で弾くと、トニーの額が赤くなり、眉間にしわが寄った。

 ……ん?皺?

「うっ……」

トニーがうめいた。

「トニーっ!!」

「わっ、ホントに起きた!!トニー!」

私達はびっくりして彼に詰め寄った。前者がリリーで後者が私だ。

「トニー分かる?!姉さんよ!」

薄く目を開けたトニーはまだ話すことは難しいようで、リリーの問い掛けに小さく頷いた。

「私、術師の先生呼んで来る!」

トニーに抱きついて泣くリリーを残して、私は担当術師に知らせに走った。







 程なくして術師が駆け付け診断をし、安心できる状態になったと言われて、ようやく私の目にも涙がにじんだ。

 日が傾きかける頃、少しだけトニーが話せるようになったので、リリーは「店が気になる」と言って先に帰って行った。

 その後連絡を受けたフォンスさんが来て、あの時何があったのか聞いていたが、トニー本人も急に刺されて意識を失ったため、ほとんど何も分からない状態だった。

 「夢の中でサヤに怒られたんだよ」

フォンスさんが部屋を出て、私とトニーの二人になると、彼は目覚める直前のことを話始めた。

「意識がなかったのに分かったの?」

「ぼんやりとね。怒られたと思ったら、急に額が痛くなって…、何だか分からないけどごめんって言おうとしたらサヤと姉さんが見えたんだ」

デコピンしたこと覚えてるんだ。まさか重体者相手にそんな暴挙に出たなんて担当術師には言えず、呼びかけたら目が覚めたと言っておいた。少々リリーの視線が痛かったが、結果的に早く目覚めたからか、話を合わせてくれた。

「き、急におでこが痛くなるなんて、おかしいわねえ。アハハ……」

こうなったら笑ってごまかすしかない。感動の目覚めに水を差すこともないだろう。

「そろそろ暗くなるから帰るわね」

「もう帰るのか?」

椅子から腰を上げた私を見て、トニーは寂しそうに聞いた。

「うん、明日また来るわ」

人は病気になったり怪我をしたら、不安になって急に寂しくなるものだ。安心させようと、また来るって言ったのに、トニーは逆に私の手を掴んできた。

「まだここにいて?」

「…トニーったら、子供みたいなこと言うのね」

上目使いで言うトニーが可愛くて、駄々っ子を持つお母さんの気分になった。

「寝るのが怖いんだ…。また目覚めないかもって、何だかわかんないけど不安なんだ!」

「でも…もうすぐ夜になっちゃうし、遅くまで軍関係者でもない私がここにいるのはまずくない?」

必死な様子に、いてあげてもいいかなと思ったが、トニーの家ならまだしもここは王宮の治療室で、さすがに独断で決めれることじゃない。

「嫌だっ!サヤに怒られて目が覚めたんだ!サヤが隣にいたら、安心なんだ!お願いだから…!ここにいてくれよ!」

「ヴァーレイ、サヤ、何かあったのか?」

トニーが私の手に額をこすりつけて懇願するのに戸惑っていると、フォンスさんが部屋に入ってきた。

「あの、帰ろうとしたら、トニーが不安がっちゃって…」

「あ、ご…めん」

フォンスさんの姿を見たトニーは、恥ずかしそうに手を離して下を向いた。それを見たフォンスさんは、優しく微笑みかけた。

「ヴァーレイ、恥じることはない。君は百戦練磨の戦士じゃないんだ。戦地で死にかけたら不安にもなろう。サヤ、君がいた方が安心するなら、もう少しいてやってくれないか?食事の世話を頼みたい」

そう言ったフォンスさんの手には、湯気の上がるトレイがあった。

「様子を見に来たついでに夕食を運んだのだが、サヤが手伝った方が気を使わないだろう。ヴァーレイがどうしても、と言うなら私がやるが……」

「そんなっ!お、恐れ多いこと!」

恐縮しまくったトニーの様子に、フォンスさんは苦笑しながら私にトレイを渡した。

「じゃあ頼んでいいかい?君の分もすぐに持ってくる」

「はい、分かりました」

 私がパンを牛乳もどきで煮込んだらしきものを、スプーンですくってフーフーと冷ましたら、さっきまで子供みたいに駄々をこねていたトニーが顔を赤くして、「それくらい自分でできる」と言った。ちょっとからかいたくなって、「こんなの看病の基本でしょ?」と澄まして言ってやったら、彼は大人しく口を開いた。

 6日ぶりの独りじゃない食事はトニーと一緒。


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