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用無し女の奮闘生活  作者: シロツメ
其の日暮らしの章
23/174

喧嘩するほど仲が良いもの(4)

 宮廷書庫に入って一日目の収穫は大きかった。

 1つ目は、異界人が与えた知識と技術について。太陽光発電ねえ…。理科で電池の直列と並列の違いを覚えたはずが、うっかりテストでど忘れして逆の答えを書いてしまったような私には、到底無縁の話である。やっぱり最初に"無理!"って宣言しといて良かった。

 2つ目は、もしかするとこの世界と私の世界では、時間のずれが数十年から百年単位であるのかもしれないということ。もしそうなら、仮に帰還方法を見つけるのに何年かかかったとしても、戻った私はそのまま誰にも"ホントにトリップしちゃいましたあ♪"なんて説明する必要なく、普段通りに生活を再開できる可能性が高い。これはありがたい情報だ。

 そして3つ目。まだ全部は見ていないけど、救世主のその後が書かれている文献を宮廷書庫で見つけるのは、望み薄だということ。このままだと、2つ目の収穫が意味なくなっちゃうじゃないか。

 「もしかしたら他の棚に載ってる本があるかもしれないけど…あの量の本を一々調べてたらおばあさんになっちゃうわ。いくら時間がずれてても、おばあちゃんの姿で戻るくらいなら、ここに永住するっつーの……」

家に戻り、一人でうんうん唸っていると、フォンスさんが帰ってきた。

 「あ、フォンスさん。おっかえりー!」

「うっ、ああ、今帰ったよ…」

お約束のように毎回赤くなって反応してくれる彼を見るのが、この世界での数少ない楽しみの1つとなっていた。"おかえり"の王道パターンとして、もう1つ言ってみたいことがあるのだが、水の貴重なエンダストリアは基本的にお風呂ではなく、身体を拭いて、髪を少量のお湯で流すくらいなので使えない。そう、アレだよ。「ご飯にする?お風呂にする?それともア・タ・シ?」だよ。まあ、さすがにそれはやり過ぎて引かれるかな。







 二人で夕食を取った後、今日の収穫について話した。因みに夕食を作ったのは勿論私だ。味付けが塩と香辛料しかないエンダストリアの料理は、多彩な食文化で育った私にはお手の物なのである。

 「デンキとは何だ?」

と、不思議そうな顔をしたフォンスさんを見て、最初の段階で話がつまずいたことを悟った。

「ええと、目に見えるもので言えばですね、雷って見たことあります?雨が急に降る前にピカッゴロゴローって」

「……アメリスタとの国境近くで一度見たが」

エンダストリアではそんなに馴染み薄なのか。

「後は寒いところで勢い良く服を脱いだり、そっと他人の指にに触れちゃった時にバチバチッとくることかは?」

「ああ、それならスカルにいた頃経験した」

「それが電気です」

「なるほど」

もう疲れてきたぞ。ここからどう説明しよう。私は電気の専門家じゃないんだ。

 「それで、救世主は電気に関して専門家だったらしくて、スカルのバチバチよりもっと大きい電気を、太陽の光を使って人工的に作り出す装置を開発したんです。地下資源と魔術を使って。それを兵器に応用したということらしいですね」

「兵器に?」

「あのバチバチ、けっこう痛いでしょ?」

「まあ、それなりには」

「電気が大きければ、痛いどころかショックで死んじゃうくらいになるんですよ。一瞬でパタンキューって」

「…そんな、恐ろしいものが……」

痴漢撃退用のスタンガンを知っている私には、「ああ、強ければ死んじゃうかもね」と思うくらいだが、電気そのものを理解する基盤が無いフォンスさんには、かなり衝撃的な話だったようで、それからしばらく考え込むように黙ってしまった。

 手持ち無沙汰になって、私は食器を洗ったり片付けたりしていたが、それでもフォンスさんは考え込んだままなので、「お休みなさい」と返事の無い背中に声をかけ、自分の寝室に入った。

 「大丈夫かな……」

思いつめた表情のフォンスさんが気になって、その日は中々寝付けなかった。でも相手は大人の男の人だ。もうそれなりに人生経験があり、人格も完成している人に、他人がズカズカ踏み込むのはお節介でしかない。私には彼から相談されない限り、余計な口は挟まず見守るしかないのだ。

 今まで私は周りの心配をうっとおしがっていた。だからこそ今のフォンスさんはそっとしておいた方がいいのだということは分かっている。でも今日、私は心配してくれていた周りの人の気持ちが理解できた。29年もかかるなんて、私はこんなにも周りの気持ちをんであげられない人間だったのだろうか。

 色んな気持ちが交じり合って、悲しいような、情けないような、寂しいような、よくわからない気分になった。

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