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用無し女の奮闘生活  作者: シロツメ
其の日暮らしの章
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喧嘩するほど仲が良いもの(3)

 エンダストリア建国よりおよそ50年ほど前、この地には3つの国があった。南から順に、王国になる前のエンダストリア、ラジリア、オートメイアである。

 3国の勢力は拮抗きっこうしており、長年冷戦時代が続いていた。エンダストリアは広大な砂漠と乾燥した草原地帯を支配していた上に魔術にけていて、地下資源に恵まれていたが、水が少なく土地が痩せていた。ラジリアは乾燥地帯と温暖地帯のちょうど間に位置し、土地柄は悪くは無かったが、3国の中で一番国土が狭く、南北両方に挟まれている状態だった。そして、長期に渡る睨みあいに有利だったのは、温暖な気候で作物の豊かなオートメイアだった。

 冷戦状態が崩れたのは、建国より4年ほど前のことだった。オートメイアがとうとうラジリアを取り込んだのだ。焦ったエンダストリアは、得意分野の魔術を駆使し、異界とこの世界を繋ぐことに成功する。そして、エンダストリアにもオートメイアにもない文化と技術を持つ異界人を引き込んだ。

 異界人が専門としていたのは"電気"だった。その者がエンダストリアの戦略としてまず手を付けたのが、太陽光発電である。もちろんエンダストリアでは、明かりを取るのに魔術の光を使用していたため、兵器に応用する目的での発電だ。そして砂漠を支配するエンダストリアに、太陽光はいて捨てるほどある。

 召喚からわずか3年、異界人は、太陽光発電に必要な半導体を作る技術の無い世界で、術師を大量導入し、その魔術を使って、比較的大きな規模のものが作りやすい、アモルファスシリコン型の発電機を完成させた。強い日差しに弱いと言う欠点はあったが、豊富な地下資源と魔術によって、劣化すればいくらでも作り直せた。そして発電機の開発と平行して、そこで得られる電気を電池のように蓄積させる魔術具を開発させ、それを組み込んだスタンガンの強力版を大量に作り出したのだった。

 建国の前年、強力なスタンガンを持ったエンダストリア軍が、大挙してオートメイアに押し寄せた。触れただけで血も出さずに次々と倒れていく仲間を見たオートメイア軍の兵士達は、皆未知の武器に恐れおののき、戦意を失った。あっという間に形勢は逆転し、劣勢だったエンダストリア軍は自軍の犠牲者を最小限にとどめて、歴史的な快挙を成し遂げた。これが"太陽神の戦い"と後に語られることとなる。ただ、異界人召喚に関しては、国民に伝えられることはなく、あくまでも国家が開発した新しい武器によって勝ったということだ。

 その後、多大なる功績を収めた異界人がどうなったのか、それはどこにも載っていない。歴史から存在と功績を抹消されたのか、はたまた自ら姿を消したのか、今となっては分からない。開発された太陽光発電機も、電気の変わりに魔術を使っていたエンダストリアにとっては、過去の戦の産物でしかなく、技術を後世に受け継ぐことはなかった。







 「200年以上前に太陽光発電?それも兵器に応用するくらいの規模だとすると、かなり現代に近い技術じゃない」

私は建国史を読んでいて、思わず呟いた。

 バリオスさんが以前、前の救世主がどんな知識を与えたかは分からないと言っていた通り、やはり大部分の建国の文献には、当時の戦争について詳しくは書かれていなかった。数冊だけ異世界と召喚について載っているものもあったが、今ひとつ要領を得ない内容だった。多分バリオスさんはこの数冊を読んで、召喚術を練り上げたのだろう。本当に頭だけは恐ろしく良い人だ。それでも探し続けると、王族の伝承が並べられている棚にあった建国史に、異界人と戦争のことが一緒に載っているのを偶然見つけたのだ。他の文献には示し合わせたように載ってなかったにも関わらず、王族関係の所に一冊だけこんなに詳しく載っているのは不自然だと思った。もしかして、当時のエンダストリアは異界人の存在を故意に隠したのだろうか。

 そして読み進めるうちに、どうしようもない違和感とぶつかった。私の世界の200年前に、そんな高度な太陽光発電の技術なんてあっただろうか。専門家じゃないが、日本だとまだ江戸時代である。世界中探せば、太陽電池の先駆けみたいなのはやっていたかもしれないが、なんちゃらシリコンがどうのなんてあったとは考えにくい。

 もしかして、時間の流れる速さが違う?

 「そろそろ閉館のお時間でございます。」

あることに思い当たった時、入り口の方から声がかかった。振り向くと、強面の方の兵士が、無表情でこちらを見ている。おお怖い怖い。分かりましたよ、帰りますってば。

「お邪魔しましたー……」

身を縮めて強面の横を通り過ぎると、優しそうな方の兵士と目が合った。

「宮廷書庫で調べ物なんて、勉強熱心だね」

「はあ、そーですかねー」

まさか喋りかけられるとは思ってなかったので、私はちょっとびっくりした。

「おい、勤務中だぞ!」

強面が制す。

「いいじゃないか、今は俺達の他は誰もいないんだから。ね、君はトニオン・ヴァーレイを知ってる?あいつは後輩なんだけど、最近話してると俺と同い年くらいっていう異国の女の子がよく出てくるんだ。君がそうなのかい?」

トニー、職場で私のこと喋ってるのか。言われて困ることは教えてないから別にいいんだけど、知らないところで自分の話題が出ている、と聞かされるのは何だか変な気分だ。

「この辺に異国の子が他にいないなら、多分私のことですね」

 強面は「付き合ってられん!俺は警備の終了を報告に行ってくるぞ」と言い捨てて去っていった。

「やっぱり君がサヤなんだね。俺はルイジエール・キート。第3隊の上級兵士だよ」

ルイジエールか。じゃああだ名は配管工のルイージだな。こうやってあだ名つけていかないと、外国の名前なんて覚え切れない。

「トニーとキートさんは仲がいいんですか?」

「ルイでいいよ。あいつをトニーって呼んでる子にキートさんって呼ばれるのは、その…むず痒いな」

惜しい、ルイージじゃなかったのか。私の中ではもう緑のオーバーオールを着せてしまってるんだけど。間違えて配管工の名前を呼ばないように気をつけよう。

 聞けばルイは、最近よく書庫の番をしているらしい。これからちょくちょく出会うことだろう。そして今夜も第3隊の宿舎で私の話題が出ることだろう。

 私も何だかルイみたいにむず痒くなってきた。

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