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用無し女の奮闘生活  作者: シロツメ
其の日暮らしの章
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人とは矛盾するもの(5)

 家に戻るとフォンスさんがいた。私を送ってくれたトニーはフォンスさんに挨拶をして、王宮の宿舎に帰って行った。

 フォンスさんは久々に家へ戻ってきて最初、玄関のすぐ外に積み上げられた埃に驚いたようだった。

「まさかここまでとは思わなかった…大変だっただろう」

「ええまあ、でも大きい物や重たい物はトニーがやってくれましたから。まだまだ汚い所ありますけど、とりあえず寝場所の確保と、歩いて埃が舞うことがないようにはできました」

「すまない、手伝えたら良かったのだが…ヴァーレイにも何か礼をしなければな」

 トニーが洗って干してくれたシーツは完全に乾いていて、お日様の匂いがした。いくつかあった部屋、全部の分を洗ってくれてたので、フォンスさんと手分けして取り込み、ベッドに敷いた。

 「そういえば、夕食はトニーのお姉さんがやってる食堂に行ってきたんです。お姉さんにフォンスさんのこと元気かって聞かれましたよ」

「ヴァーレイの?」

「昔フォンスさんが助けたらしいですね」

お姉さんのことがいまいちピンと来ない様子のフォンスさんに、トニーから聞いた話をした。

「…ああ、確かヴァーレイが軍に入りたての頃、覚えているかと彼に聞かれたな。その時に姉からお礼の手紙を預かっていると言って渡されたよ。何年も経ってるのに律儀な人だとは思った。彼女は食堂をやっているんだな」

あんまり覚えていなかったようだ。今の話だと、助けてもらってからは直接会ってはいないのだろう。6年も想ってるのに、世の中うまくはいかないものだ。まあ、私は紙面上とはいえ、フォンスさんと結婚してお世話になるのだから、キューピッド役になってあげるつもりはないが。こんな私は性格が悪いのかな。でも私は今自分のことで精一杯だ。他人の幸せを手助けするのはまず自分が幸せになってからである。

 フォンスさんは仕事が終わった後、荷物をまとめて王宮の宿舎を引き上げて来たらしい。偽装結婚であっても、放ったらかしで廃墟となった家に、女性一人を住まわせることは危なくてできないらしい。私もその方が助かる。王宮では上げ膳に添え膳だったから、家だけポンッと渡されても困る。まず生活様式が分からないし、通貨が分からないから食料の買出しにも行けない。それにちょっと楽しみにしている結婚生活シミュレーションも…。

 「宮廷書庫への立ち入り許可は明後日になりそうだ。婚姻手続きは陛下のお口添えもあったが多少無理矢理に省略したから、召喚の事実を知らない事務方が混乱している。ああ、召喚については他言しないでほしい。広まって下手にエンダストリアの劣勢が市井しせいに知られると、民が不安がるからな」

「分かりました。多分勝手に言わない方が良いと思ってたんで、まだトニーにも言ってません」

「君が気の付く子で助かる。ヴァーレイの立場はまだ市井に近い。信用のできる人間だとは思うが、まだ知らない方がいいだろう」

気の付く子、と言われてちょっと嬉しかった。

「明後日まで無理なら、明日は掃除の続きをして、後はどうしましょうか」

「そうだな、当面の日用品や食料を買いに行かねばならない」

「じゃあ、郊外に行きたいです」

「そんな遠い所へ行くのか?」

フォンスさんは意外そうな顔をした。

「トニーとご飯食べてる時、私の容姿が他の人からはちょっと珍しかったみたいで…。郊外の近くに同じ容姿の商人がいるって聞いたんです。そっちで買ったほうが無難かなって思って」

ちまたがグローバル化していないと、私のような外国人がうろうろ買い物して目立つのは、トラブルに巻き込まれる元だ。

「そうか。それなら案内しよう。荷物も相当な量になるだろうから、一人では無理だ。明日は一端王宮へ行かねばならないが、昼には戻って来よう」

「ありがとうございます!じゃあ明日ですね。おやすみなさい」

「……あ、ああ、お休み。ふっ…、ずっと"お休み"なんて言っていなかったから、何だか照れる」

「私もです」

 私に当てられた寝室で寝巻きに着替えてベッドに横たわり、さっき頭をかきながら照れていたフォンスさんを思い出して、ちょっと可愛いかった、なんて思ってしまった。


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