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用無し女の奮闘生活  作者: シロツメ
番外編(過去編)
168/174

君の心、雨夜の月(8)

 「魔術のランプをバリオス殿に作らせたのは、ここから先の暗闇を進む為でしょう?」

「……」

フォンスは視線の指すものを悟って言った。しかしクレストはそれには答えずに、荷物からランプを取り出した。

「あいつはな、一度友人と決めたら、そいつのことを純粋に信じてしまうんだ。本当、餓鬼みてぇに……」

ランプを見つめながらクレストは更に続けた。

「俺はそれを受け止め切れるほど出来た人間じゃない。バリオスもお前も、そしてディクシャールも、美化して慕ってくれたみたいだけどな、所詮は狼に衣、俺は一匹狼さ」

クレストの表情は依然無のまま変わらない。

 もう何を言っても無駄なのか? 理由も告げずに黙って行くのか? 

 そう考えた瞬間、フォンスは感情的になって説得をするのが空しくなった。クレストは脱走することに、弁解も言い訳もするつもりはないのだ、と感じられたからだ。そうすることで残されたバリオスや、責任を取らされるであろうコートルに、恨みを抱かせる余地を作って去ろうとしているのだ。

 「で、どうする? お前も脱走するか?」

フォンスが思った通り、クレストは出て行く理由には一切触れず、選択を迫った。

「あなたとは、行けません」

今すぐ帰れるという甘美で魅力的な考えを振り払い、フォンスはそう告げた。

「お前は真面目過ぎるからな。そう言うと思ったぜ。誘ったのは魔が差しただけだ」

「クレストさん、俺は……」

「気にすんな。ダントールは正攻法で帰れ。それが一番良いんだ。その"時"はもうすぐ来る」

予言のような言葉を残し、クレストは魔術のランプを付けた。

 さようならさえ言わないのか。

 背を向け闇へと去って行く姿と見送りながら、フォンスは独り呆然と立っていた。






 クレストの姿が完全に見えなくなり、フォンスが街へ引き返そうとした瞬間、横手から影が飛び出した。

「くっ……!」

胸を目がけて襲いかかるショートソードを、フォンスは身を捻ってどうにか避けた。

 しまった、別れに気を取られて、狙われていることを失念していた。

フォンスは油断した無様な自分に苛立った。

 ショートソードの主はエミューンだ。一撃目失敗した彼は、すぐさま構え直し、再び切りかかってくる。それをフォンスは避けざまにエミューンの手首ごと掴み、動きを封じた。

「お前は……! どこまで卑怯なんだ!」

フォンスが怒鳴りつけると、エミューンはそれを鼻で笑った。

「ふん、一緒に行けば良いものを。邪魔なんだよ、ダントール。お前がいる限り、俺は隊長どころか副隊長にも昇格出来ない」

「何だと?」

「昔ディクシャールに言っただろ? 帰郷しても戻ってくるって。廊下で偶然聞いたんだ。コートル隊長は知らなかったみたいだがな」

「それがどうした?」

「お前がそうやって3隊居座ることが分かれば、隊長はお前を優先して副隊長にするだろうよ。司令官の甥を差し置いてでも、だ。実力はお前ばかり評価されているからな。それに、大臣にまで取り入りやがって……俺も叔父さんもそれが我慢ならないんだ。スカル人が先に出世するなんて!」

エミューンは吐き捨てるように言って手首を捻り、フォンスを振り払った。

 僅かによろめいたフォンスの背後に、もう1人気配が現れた。

「オリト、今だれ!」

エミューンが叫ぶと同時に、オリトはショートソードを水平に構えて突進した。

 この距離は避け切れない!

フォンスが歯を食いしばった刹那、オリトの剣はフォンスのすぐ横を風のように擦り抜けた。

「ぐぅっ!」

呻き声を上げたのは、その先にいたエミューンだった。彼の服の左腹を覆っている部分には、血が滲んでいる。それでも致命傷ではなかったようで、間を空けたオリトを苦しそうに睨み付けていた。

 「どういうことだ、オリト」

「言っただろう? 俺も"覚悟"を決めたって。お前の呪縛から解き放たれる"覚悟"をな」

どうやら本当にオリトはエミューンを裏切るつもりだったようだ。そうフォンスが安堵したのも束の間、オリトはもう一度エミューンに向かってショートソードを構えた。

 「おい、エミューンを捕まえるんじゃないのか? これだけ負傷していれば十分押さえられるだろう」

フォンスはオリトの様子が普通でないと感じ取り、少し焦った。

 オリトはゆっくりフォンスを振り返る。

「甘いな、ダントールは。司令官の甥を捕まえて突き出したところでどうなるって言うんだ? 俺達が無事に戻り、コートル隊長がクレストさんの脱走による処分からまぬがれる方法は、第3隊に平穏が訪れる方法は、たった1つしかない」

「アッハッハッハ! 何だよオリト、平穏ってさ。波風の根元は、ダントールだ」

馬鹿にしたように笑い飛ばすエミューンを、オリトは冷めた目で見た。

「否、根元はお前と、司令官だ。ダントールとコートル隊長に固執しているのはお前達だけなんだ。出世は実力の順にすればいい。出来なかった俺は、それだけの実力なのさ」

「俺を裏切って、叔父さんが黙ってると思うなよ……」

 オリトとエミューンが再び臨戦体勢に入った時、闇の方から僅かに気配が動いた。



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