表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
用無し女の奮闘生活  作者: シロツメ
番外編(過去編)
159/174

金の狐と黒い熊(26)

 両者の人数は、確実に減っていった。時間があとわずかに迫る頃には、守る側はクレストを含め4人が残り、お宝に見立てた石の周りを警戒している。

 一方、奪う側は敵を寄せ付けないラビート、素早くて神出鬼没のフォンス、ずっと隠れていたドルビー、他には作戦を積極的に立てていたリーダー格の2人、計5人が残った。

 フォンス達は、守る側が見張る最低限の人数で、下手に遠くまで動き回れないと判断し、一端5人で集まって話し合った。

 「どうする? 普通に考えりゃあ4人がそれぞれ1人ずつ担当で囮になって、その隙に一番突破力のあるディクシャールが石を奪うって感じなんだかなぁ……」

「囮の4人全員が敵を押さえられなきゃ、意味ねぇよな」

リーダー格の少年2人はドルビーを見た。

「お前、今まで全く動けてないよな。危うくいたのを忘れるところだったぜ。もう名前が何だったかも分かんねぇし……」

「向こうにしてみりゃ、コイツが俺らの弱点だ。クレストさんなら迷わずコイツを無視して石の守りに専念する。いくらディクシャールでもあの人と1対1はやばいよな」

少年達はため息をついた。

 今まで散々持ち上げられて、独りで頑張っていたラビートは、僅かに不満げな表情をしたが、言い返しはしなかった。ルール上、敵を倒す条件は腰紐を奪うだけだ。力押しで負かすものではない。第3隊の上級兵士であるクレストが、力業をかいくぐって阻止するのが得意なことくらい、ラビートにも分かっていた。

「ということは、だ。こっちも実質4人のつもりで……」

「いや、ドルビーは使えるかもしれない」

悩める少年達に口を挟んだのはフォンスだった。

「何だよスカル人。コイツが鈍臭くて使えないの、組んでたお前が一番分かってんだろ?」

「ドルビーのことを味方のお前らも忘れてたんだ。使えるさ」

フォンスは不安げに黙っているだけのドルビーの肩を叩いた。

「言っただろ? 粘っていれば、いつか見せ場が来るって」







 訓練場は静まり返っていた。時折風で乾いた砂が舞い上がる。

 守る側の少年3人は、クレストに言われた通り、何があっても等間隔で石を囲んだまま動かなかった。

 少しの物音にも緊張が走る。そんな空気を先に動かしたのはフォンス達だった。

 施設の陰から一斉に飛び出し、敵の目の前で4手に分かれた。敵の少年3人はラビートとリーダー格の少年2人が、クレストにはフォンスが突撃する。

 「やっぱり俺にはお前が来たか、ダントール」

クレストは待ってましたとばかりに、余裕の表情でフォンスをかわし、腰紐を掴んだ。

「くっ!」

フォンスも取られまいと自分の腰紐の結び目を握り、引っ張る。

 そこへ、いち早く担当していた敵の腰紐を奪ったラビートがやって来た。

「うらぁあっ!」

「おぉっと」

クレストはあっさりフォンスの腰紐を離し、ラビートの手をはね除けた。

 まだだ、もう少し……

 フォンスは焦る気持ちを抑え、クレストに飛び掛かった。またもやかわされるも、間入れずラビートが両腕を広げて捕まえにかかる。そこへリーダー格の少年の1人が、敵の腰紐を奪い終え、加勢の為に走ってきた。

 今だ! 

 フォンスはそう確信し、力一杯叫んだ。

「行け!!」

それを合図に、物陰からドルビーが飛び出した。

「何!? まだ1人いたのか!」

焦りを見せたクレストが、ドルビーに向かって方向を転換させた。そうはさせまいと、加勢の少年が立ちはだかる。後ろからはフォンスとラビートが追いかけ、前後からクレストを挟むように掴みかかった。

 まだ残っている敵は、もう1人のリーダー格だった少年と揉み合っている。その脇をドルビーは息を止め、お宝まで一直線、力の限り走った。

 ラビートと少年を避けたクレストは、僅かにバランスを崩した。フォンスがすかさずその腰にしがみつく。

「走れっ! ドルビー!!」

フォンスの声が届いたのか、ドルビーは顔を真っ赤にしながら更にスピードを上げた。

 そして、頭から滑り込むように突進したドルビーは、石をしっかり抱えて勢い良くころがった。

「勝っ……た?」

フォンスが小さく呟くと、他も口々に「勝った……」「勝った!」と言い出し、ついには牢に捕まっていた者も飛び出してドルビーの所に集まり、奪う側の大喝采となった。

 ドルビーは自分の起こした奇跡にしばらく呆然としていたが、皆に肩を叩かれ、頭を混ぜられ、次第に嬉しそうな笑顔になっていった。

 騒ぎは執務室まで響き、コートルが何事かと駆けつけた。

「これは……どういうことだ? クレスト」

「本気で遊ぶと、仲間意識と協調性が芽生えるか、という実験です。結果は見ての通り、成功のようですね」

座り込んでいたクレストは、年寄りのようにゆっくりと立ち上がり、首を回した。

「ふむ……要は遊んでいてつい本気になったが、新人にしてやられた、ということか」

「隊長、最近冷たくないですか?」

決まり悪そうに頭を掻いたクレストは、自棄ヤケになって「奪う側は全員3隊に入れる!」と叫び、少年達から大顰蹙ひんしゅくを買ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ