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用無し女の奮闘生活  作者: シロツメ
番外編(過去編)
158/174

金の狐と黒い熊(25)

 コートルの計らいにより、第3隊が訓練で使わない時間のみ、施設の使用許可が下りた。しかしクレストの自主性重視という名の放任主義は変わらず、壁を登る者、ロープを渡る者、ただ走り込みをする者など、少年達は各自好きな施設を自由に使った。

 そして隊の振り分けを明日に控えた最終日。この日は準備運動の後、珍しくクレストが召集をかけた。

「今日はちょっとした遊びをする」

クレストはニヤリと笑って、足元に置いた大人の頭程の大きさの石を持ち上げた。

「これをお宝に見立てて、訓練場の真ん中に置く。お前らはお宝を守る側と奪う側の2手に分かれろ」

 遊びのルールはこうだ。物陰や逃げ場の点在するこの訓練場を、自由に使い、奪う側が守る側の手をすり抜けてお宝の石まで辿りつけば奪う側の勝ち、奪えなければ守る側の勝ち。敵味方の目印は赤と青の腰紐で、引っ張ればすぐに解けるよう結んでおく。双方に専用の"牢"という場所を作り、敵に腰紐を奪われたらそこへ連行され、待機する。一度"牢"に入ればもう出ることは出来ない。その為、どちらも人数はどんどん減って行く仕組みだ。制限時間は本日の使用許可が下りている時間内。

 「俺は守る側に入る。施設は今まで散々使わせたから、奪う側の作戦は勝手に考えてくれ。分かれ方は自由でいいが……そこの弟子その1とその2、お前らは奪う側だ」

クレストはそう言って、フォンスとラビートを指した。

「え……」

「俺まで勝手に弟子にすんじゃねぇ!」

フォンスは肩を落として残念がり、ラビートは憤慨した。

「ダントール、これも愛の鞭だ。俺を負かしてみろ。ディクシャール、お前はこの前渋る女の落とし方を伝授してやっただろ? ある意味俺の弟子だ。性格上ダントールにこの手の指南は無駄だしな。弟子同士力を合わせてかかって来い」

 ラビートはフォンスのいない所で、半ば無理矢理クレストから"女の口説き方"を聞き込まされていたのだ。これは後々大人になってから役に立つこととなるのだが、この時のラビートにとっては、迷惑以外の何ものでもなかった。

「ラビート、そんなこと聞く暇があるならもっと鍛錬に集中しろよ……」

「聞きたくて聞いたんじゃねぇよ!」

 フォンスとラビートが言い合っているうちに、他の少年達はさっさと2手に分かれた。







 人数は、奪う側の方が若干多かった。事前に作戦を立てる時間が少しだけ設けられ、フォンス達奪う側は施設の物陰に集まり、話し合った。

 「どうするんだ? 向こうには上級兵士がいる分、こっちが不利じゃないか」

「そうなんだよな……」

「多分強い奴を石の周りに張り込ませて、取りに来た奴を片っ端から捕まえる気だぞ」

「とりあえず、人数はこちらが多いんだし、それを利用するか」

「そうか、向こうが張り込み以外で自由に動ける人数は限られてる。まずはフラフラしてる奴を1人に2人がかりとかで捕まえて、地道に人数を減らそう」

「単独行動は危険だよな。あ、でもお前は一人でも大丈夫そうだな」

口々に自分の考えを披露していた少年達の視線が、ラビートに集まった。

 元来頭脳派ではないラビートは、リーダー格になるつもりのないフォンスと共に、立てられた作戦に従うつもりで傍観していたのだが、視線を受けて「何だ?」と首を傾げた。

「お前の力なら、敵に少々囲まれても無理矢理捻じ伏せられるだろ?」

作戦を立てていた少年の期待に満ちた物言いに、ラビートは仕方なく頷いた。

「まぁ、出来なくはないが……何だか囮役にされてる気がするぜ」

「そこまで深い意味はない。適材適所さ」

「ふうん」

 奪う側の作戦は、ラビート以外2人組みで行動して、最初に敵の人数を減らし、隙を狙って石を奪うことに決まった。そしてクレストが開始の合図をすると共に、各自パートナーと散らばった。

 案の定、石の周りはクレストを始め、能力の高い者が固めていた。奪う側の少年達は、まずそれ以外の敵の隙をうかがう為、施設の陰に隠れた。

 フォンスのパートナーは、ラビートほどではないが、少し体の大きな少年だった。名前をドルビーという。彼は力持ちではあるが、動きが鈍く、性根も優し過ぎる。故に、合格者中で実力は最下位だった。

 「ねえ、ダントール君、僕が囮になろうか?」

障害物コースの陰から外を覗くフォンスの背中に、ドルビーは消え入りそうな声で話しかけた。

「囮はラビートに任せとけって」

「でもさ、他に役に立てる気がしないんだ」

「いや、粘ればいつか見せ場が来るかもしれないだろ? 今は無駄に人数を減らすわけにはいかないんだ」

 その時、ラビートが動いた。まず1人でウロウロしていた敵を押し倒して腰紐を奪い、それを見て応援に来たもう1人の敵も引きずり、2人まとめて牢に入れた。

 「ちょっとそこでじっとしてな」

フォンスはドルビーを残して物陰を渡り歩き、敵の後ろへ回りこんで素早く腰紐を引き抜いて戻って来た。敵は何が起こったか理解する前に腰紐がなくなり、とぼとぼと牢に入って行った。

「凄いねえ。僕には君が瞬間移動したかのように見えたよ」

ドルビーは素直にフォンスを褒め称え、小さく拍手した。

 


ディクシャールがクレストから教え込まれた"女の口説き方"が後にどう役に立ったかは、本編のいたる所書かれています。

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