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用無し女の奮闘生活  作者: シロツメ
其の日暮らしの章
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人とは矛盾するもの(3)

 3日後、私とトニーはフォンスさんの家の玄関で立ち尽くしていた。

 新居に移動する朝、フォンスさんは会議等で忙しいため、代わりに案内人及び片付けの手伝いとして、トニーを付けてくれた。ピンクのトレーナー姿で王宮の敷地から外に出るのは、さすがに目立ちすぎるため、ネスルズで一般的な服を何着か貰った。お腹の下辺りまでの貫筒衣をウエストで留め、下はすねの真ん中くらいまであるスカートだ。ゲームのRPGに出てくる村人その1風な格好だなと思った。

 王宮から歩いてそう遠くない所に家はあった。フォンスさんが7年前隊長に昇格した時に、前の隊長だった人の別荘を譲り受けたものなのだそうだ。だから敷地はある程度広く、庭も狭くはない。ただ、何年も人の手が入っていないため、庭とは呼べない有様だった。乾燥した土地柄なので、雑草が生い茂るようなことはないが、所々地面の土がひび割れていて、それが薄汚れた建物の壁と妙にマッチし、幽霊でも出そうな廃墟の雰囲気をかもし出してした。

 私とトニーはお化け屋敷に入る前のような気持ちで顔を見合わせ、意を決するかのごとくお互い頷き合うと、獅子ライオンもどきのドアノックがついた重々しい扉を開け…そして立ち尽くしたのだった。

 「埃と蜘蛛くもの巣は勿論標準装備、オプションとしてカーテンの黄ばみと鼠のペットがただ今キャンペーン中につき、無料で付いてきます」

「は?何言ってるんだよ」

いきなり不動産屋の営業文句風に喋りだした私を、トニーは怪訝そうに見た。

「私の故郷じゃ、物件を売る時はこう言うのよ」

「ふーん……」

「いいの、聞き流してちょうだい」

トニーはいまいち分かっていない様子だったが、目の前の状況を見てげんなりした私は、それ以上説明する気分じゃなかった。

 まずは二人で家中の窓を開け、寝室の掃除から取り掛かることにした。

「とにかく先にベッドのシーツを洗わなくちゃ、今晩寝る場所もないわ」

「じゃあでかいから僕が洗う」

「いいの?」

若い今時の男の子であるトニーが洗濯をするところなんて、想像も付かない。

「大丈夫。下級兵士は宿舎の部屋掃除は自分でするんだ。シーツくらい洗い慣れてるって」

「へえ、えらいのね。じゃあお願い。私はこの床の埃を何とかするわ」

学校の寮みたいな感じなのかな。軍に入っても下っ端の内は、自分のことは自分でするってことか。

 そうしてトニーはシーツを洗ったり、埃をかぶったソファやテーブルなど大きな家具を外に出したりし、私は家の奥の物置にあったモップと雑巾で家中を拭いて回った。

 夕方になる頃には大方片付いて、何とかギリギリ人が住める状態になった。

「何と言うことでしょう。蜘蛛の巣が張り巡らされて薄暗かった天井や壁は、スッキリ見渡せるようになり、埃をかぶり、鼠が闊歩かっぽしていた床は、清潔感あふれる上品な輝きを取り戻したのです」

「…それもサヤの故郷でよく言うのか?」

「うん、家を改装した時にね」

「ふーん。……なあ、腹減ったな……」

 ぐうっ

「……」

トニーが言い終わらない内に、私のお腹が音を立てて空腹を訴えた。

「ぷっ……」

「ちょっとトニー!こういうのは聞き流すのが礼儀でしょ。笑わないでよ恥ずかしい」

「良いタイミングで腹鳴らすなよ。ぷぷっ」

鳴らすも何も、生理現象なんだから仕方がないじゃないか。

「お腹が減るのは人間の三大欲求の内の一つなの。鳴らない人がおかしいの」

「三大…欲求?」

「食欲、睡眠欲、あとは……」

「あとは?」

「…トニーにはまだ早いから言わない!」

年頃の男の子相手に性欲なんて言えるか!こんな話題出すんじゃなかった。

「早いって何だよ。自分で言い出してはぐらかすなんて、変な奴」

「あーあ、お腹空いて倒れそう!」

「司令官、夕方までには仕事が終わらないからって言って、僕が夕食代預かってるんだ。どっか食いにい行こう」

へえ、街には出たことないから楽しみだな。

 私はわくわくしながら、トニーの後を付いていった。


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