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用無し女の奮闘生活  作者: シロツメ
其の日暮らしの章
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人とは矛盾するもの(2)

 トニーに私達の結婚のことをどう説明するのかについては、案外簡単に解決した。ダントールさんいわく、「言わなきゃ分からない」そうだ。挙式しなければ、文字通り紙面上の手続きのみで終わってしまうらしい。何だかそういうところが機械的な私の世界と同じで、拍子抜けしてしまった。

 住む所は、王宮近くにある、ダントールさんが隊長時代に住んでいた家になった。結婚を諦めてからもう何年もそこへは帰らず、ずっと王宮敷地内にある軍の宿舎に寝泊まりしているため、空き家となった家の中がどうなっているのかは、当のダントールさんも知らないらしい。新婚早々、大掃除から始めなければいけないかもしれない。

 とりあえず、私はただ"訳あってダントールさんの家で世話になってる"って設定でいいそうだ。どんな訳だって聞かれたら困るけど、トニーを始め下級兵士がおいそれと、上司があえて濁すような込み入った事情に首を突っ込むことなどできないらしい。規律ってやつだ。こうも簡単に隠せるなんて、なんだか少し寂しい気がした。







 次の日、ダントールさんが婚姻に必要な書類を持ってきた。

 不思議なことに、ミミズのった跡にしか見えないエンダストリアの文字の意味が分かる。

聞けば、私が初日に刺されたピアスは、あのバリオスさんが開発した魔術具で、エンダストリアの言語の情報を、神経伝達と同じ速度で脳に送るらしい。ダントールさんは何やら小難しい説明をしていたが、要は聞いた言葉を瞬間的に翻訳して脳に伝え、逆に話そうとしたことをこれまた瞬間的に翻訳して、今度は脳がくちへエンダストリア語に動くよう支持を出すとか。その瞬間的というのが、人間の神経伝達と同じ速度であるため、不自然なタイムロスも無く今まで普通に会話できていたという。文字も目で見たら即翻訳されて脳が認識するから読めるのだ。自分の境遇に必死で口が勝手にエンダストリア語を喋ってるなんて気付かなかった。

 それからバリオスさんは実はとんでもなく頭が良かったという事実。情けない姿ばかり見てきたから何とも受け入れ難い事実だ。ダントールさんが、異世界から救世主を召喚する際の条件としてバリオスさんに、エンダストリア語が通じなかった時の対策を取るよう要請し、バリオスさんはこのピアスを徹夜3日間で完成させたそうだ。しかし召喚で異世界の人間が現れ、ピアスもちゃんと機能したのに、私が何もできない一般人だった。まあ私のせいじゃないけど、かなりかわいそうな奴だとは思う。

 「ここに君の名を書いてくれ」

おお、エンダストリアの文字でどう書けばいいのか分かる。文字を覚えていると言った感じか。ローマ字で名前を書くときと似たような感覚だ。すごいぞバリオスさん。

「サヤ…カミカワ?」

「ええ、沙弥・神川です。受理されたら沙弥・ダントールになるんですか?」

「そうだな」

偽装とはいえ、照れ臭いむず痒い感覚だ。ダントールさんのことは嫌いじゃない。むしろ好きな部類だ。こうなったらせっかくだから、結婚生活シミュレーションとして心の中で楽しんじゃうのもアリかも。それならば…

「同じダントールになるのだから、フォンスさんって呼んでいいですか?」

「急に呼び方を変えたらヴァーレイが不思議がらないか?」

「名前で呼ぶくらい親しくなったってことで。ダメ?」

ちょっとぶりっ子気味に聞いた。

「構わない。君の好きにしなさい」

フォンスさんは苦笑しながら言った。


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