狂想散花エピローグ
キートは目を開け、不思議に思った。何故、自分は生きているのだろう、と。
起き上がろうとしたが、体が思うようにならない。特に左腕は全く動かない。
やっとのことで首だけ動かすと、全く動かない理由が分かった。なかったのだ、左腕が。どうりで動かないわけだ。
「何だよ、これ……」
キートは自分の状態が滑稽に思えて、クスクスと笑い始めた。
「自分の腕がないのが、そんなに可笑しいか?」
右側からジグモンドの声が聞こえた。
「これじゃ、もう諜報員として働けませんよ。いっそ死んだ方がマシだ。あなたなら、役立たずになった俺を、躊躇なく殺すと思ってました。」
この場に一番いるはずのない男を認めたくなくて、キートは左に顔を逸らしたまま言った。
「前も言ったはずだ。ここまで育て上げたのに、殺しはせん。」
「前も言いましたよ。どうせ、使い捨てなのに。」
キートの頑なな態度に、ジグモンドはため息をついた。
「使い勝手は良かったが、捨てることはない。お前にはまだ血が足りん。起き上がれるようになるまで、そうやって不貞腐れてろ。喋るよりは良い。」
その瞬間、キートの顔が歪んだ。
「大将、どうしてだろう。左腕がないのに、痛いんだ。肘が、手首が、指が、あった時と同じように……、痛いよう…」
大粒の涙を流すキートの頬を、ジグモンドは乱暴に拭うと、拳骨で彼の頭を小突いた。
「痛い……」
「それが生きていると言うことだ。お前はもっと痛みを知れ。今までお前が無駄に殺してきた者の分までな」
ジグモンドが出て行った後、キートは自分の記憶している中で初めて、声を上げて泣いた。何故嗚咽が止まらないのか、彼自身分からないまま、声が枯れるまで泣き続けた。
以上、トニーVSルイージ編でした。
トニーちょっとしか出てこなかったんですが…すみません。
サヤ達が奮闘している裏で、アメリスタでこんなことがありましたよ~的なお話になっちゃいましたね。
実はアメリスタ侵入はジグモンドが国境の警備を緩めていたとか、実はエマヌエーラがルイージから聞いたサヤの話を父親にしてなければ、フォンスはさっさと殺されてたとか、実はトニーはサヤに振られること以上の辛い思いをしていたとか、そういう裏話を本編と見比べながら読むと、ああそうだったんだ~と思っていただける……かな?食い違いはないと思います、多分ね…多分。
お分かりだとは思いますが、トニーの出した小さな板は、エレクトリックガード(仮)3号です。本編では後にバリオスが「一瞬で砕けてしまったそうです」と言っていますが、このことだったんですよ。
あと、サヤやトニー達は死んだと思ってましたが、ルイージは助かったんですねえ。ルイージは書いてるシロツメまでムカついてくる奴だったので、死んだことで終わらせようかと思ったんですが、それだとルイージをちょっぴり気に入って使っていたアメリスタ公が、後にウキウキしながら遺骨を持ってエンダストリアに来た、という本編の設定に違和感が出てしまうので、エマヌエーラがジグモンドを呼んで、辛うじて助かった、という終わり方にしました。
とりあえずこれでやっと完全完結した、という気分です。
それではまた、別の番外編でお会いしましょう。