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用無し女の奮闘生活  作者: シロツメ
其の日暮らしの章
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世の中所詮そんなもの(7)

 ダントールさんもディクシャールさんも、周りでざわついていた大臣達も、一斉に静まり返った。勿論私も。

「司令官同士がわっぱのような争いをすでない。」

一変、国王様は声のトーンを落として言った。国王様の視線は主に司令官2人に向いているが、私も最高に居心地が悪い。小学生の時に廊下で走って先生に怒られたような気分だ。

「申し訳ございません」

「無礼をお許し下さい」

大の男2人も各々おのおの謝罪を口にした。前者がダントールさんで、後者がディクシャールさんだ。

「ディクシャール、今はこの娘と謁見しておる。戦の議事のようなことは慎め。そなたの申し分は場を改めた上で聞く」

御意ぎょいにございます。」

さすがです、国王様。あっという間に争いをしずめてしまうとは。

 ディクシャールさんが下がると、国王様は「さて…」と言って私を見た。

「そなたが帰還を望んでいることは、聞かずとも容易に想像がつく。しかし、ディクシャールの申した通り、バリオスを戦力外とするのは難しい話である。そもそも、戦力を落としてわが国が滅びれば、そなたも帰還どころではなくなるのは分かるであろう?」

「はい」

「であるが、そなたに非はない。不憫ふびんに思うておるのだ。そこで問いたい。帰れぬそなたはどうしたいのか。この状況で何を望むのか」

 試されていると思った。我侭好き勝手言う人間なのか、身の程をわきまえて己のすべきこと考えられる人間なのか。ここは後者を選ぶのが正解に決まっている。今の言い方だと、できる範囲だったら叶えてあげるって感じだから。

 ダントールさんを見ると、「大丈夫だ」と言うような顔で頷いてくれた。なら言っちゃえ。

「バリオスさんが調べられないなら、自分で調べさせて下さい」

「ほう?」

国王さまは面白そうな顔をした。

「文献とか伝承とか、そういう本がある所に出入りできるようにしてもらえたら、後は自分で探します」

「宮廷書庫か…。うむ…」

「陛下、宮廷書庫は身分のない者は立ち入れませんぞ」

また誰かが口を挟んだ。脳天の髪の毛がヤバイ、ぽっちゃりしたおじさんだ。鎧は着けてないから、大臣か何かだろう。もう役職なんて何だっていい。そんな何人も覚えられん。

 「わかっておる。身分が必要なら与えるとして…となるとまずは先程の話に出た戸籍が必要だ。エンダストリアの戸籍無き者へ、容易に身分を与えるわけにはゆかぬからのう」

「一番早く戸籍を取得する方法は何ですか?」

世界が変わっても国家や法律ってめんどくさい。手っ取り早い方法がいい。向こうで私が失踪したことに誰も気づかない内に帰りたいんだよ。

「…婚姻、であるな」

「婚姻…って結婚しろってことですか?」

「うむ。無論、エンダストリアの者と」

うむ、じゃないよ国王様。結婚は相手がいないと無理だ。今から見つけろと?全く手っ取り早い方法じゃない。

「この国に恋人もいないのに…相手はどうするんですか……」

言ってて泣きそうになった。簡単に相手が見つかるなら、向こうでもうとっくに結婚してる。

 「バリオス殿に責任を取ってもらえばいかがか?」

さっき口を挟んだぽっちゃり大臣が、とんでもないことを言いだした。

「そうだ、バリオス殿の館には宮廷書庫に勝るとも劣らぬ量の書物があるではないか」

「未だ独り身であるしな」

「しかし年が離れすぎてはいないか?」

「そのようなこと、珍しい話でもあるまい」

「ああ、それにバリオス殿はじきに防御壁を張るため王宮にこもられる。夫婦生活など関係なかろうて」

「そ、そんな!お待ちください!」

他の大臣達もニヤニヤしながら勝手に話を進めるのを、当のバリオスさんが慌てて止めに入った。

「この状況でバリオス殿に拒否権などありますまい」

ぽっちゃり大臣はこれで話がまとまったと言わんばかりだ。

「ちょっと、私の拒否権は…」

「娘、一番早い方法と言ったではないか」

それはそうだがバリオスさんはやめてほしい。フラフラッと自殺しに行っちゃうような人は。

「本当に、お待ちください!私がこの年まで誰もめとらなかったのは、魔術の研究に集中したいが故のこと!貴重な研究材料が館のいたるところにあるのです!そのために使用人も雇わずにいたくらいですぞ!今更妻が入るなど…!」

バリオスさんは真っ青な顔で食い下がった。そこまで嫌がるか。私も嫌だが女としては複雑な心境だ。

「なら誰がこの厄介な娘を娶る?」

「この場にいる者で未婚者は限られておるぞ」

「バリオス殿、召喚した者としてここは耐えてくれぬか?」

「耐える耐えないの問題ではありませぬ!」

もう、ひどい言われようだ。バリオスさん、後で覚えてなさいよ…。

 「私が娶ろう!」

いきなり響いた声に、誰もが振り向いた。

「ダ、ダントール殿?」

「正気か?」

ぽっちゃり大臣を初め、皆かなり狼狽している。

「皆様、年若い娘を前に下世話な話をするとはどういうことか」

ダントールさんにそう言われてひるむ大臣らを尻目に、私はさっきの言葉を上手く飲み込めずにいた。

「ダントール殿、貴殿はまだ若い。将来も有望だ。何もこのような厄介な娘を…っ!」

厄介、と言った瞬間にダントールさんから睨まれたぽっちゃり大臣は、ようやく口を閉じた。

「バリオス殿に責任を問うなら、立ち会った私にも責任はある。サヤに戸籍が必要なら、私が責任を取って戸籍に入れる。だからもうこれ以上彼女をおとしめるような言葉は謹んでいただきたい」

「し、失礼した」

ダントールさんじゃなくて私に謝れ、ぽっちゃり大臣。

「ダントールさん、私はあなたと結婚するんですか?」

恐る恐る彼に問う。

「紙面上のことだ。君は何も心配しなくていい。なるべく早く宮廷書庫立ち入りの許可が下りるよう手配する」

安心させるように優しく微笑むダントールさんに、私は複雑な心境で頷いた。

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