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用無し女の奮闘生活  作者: シロツメ
孝行と不孝の章
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難関な過程でも結果は単純なもの(2)

 ピンクな夢を見た翌日、スカルからぽっちゃり大臣が帰って来た。

「ダントール殿の奪還は成功したそうだな。よくやったぞ。熱はどうだ?」

少し雪焼けした顔で訪ねて来た彼は、とても上機嫌だった。

「もう下がりました。大事を取って今日はここに泊まりますけど、明日には家に戻ります。皆さんお忙しいみたいですし、邪魔になるといけないので」

今王宮内はとてもバタついている。大昔に歴史の一部を揉み消したエンダストリアにとって、アメリスタの先祖が異界人で、それが今回の独立戦争を起こす原因となっていたなど、寝耳に水だったのだ。休戦の話も、聞いて"はい、そうですか"と一朝一夕いっちょういっせきで丸く治まるものではないらしい。王族の威厳に関わるかもしれない問題だけに、箝口令かんこうれいが敷かれ、上層部が走り回っているのだ。一方、異界に森田さんの遺骨を届けることになるであろう私は、事態が落ち着くまで何もすることがなかった。

「そうか。慣れぬ旅の疲れはすぐには取れん。家の方がゆっくりできるだろう。しっかり休め。それからな、神布しんぷを見ることができたぞ。本当に神が舞い降りたかのようであった」

「本当ですか!?いいなあ。観光のことはどうなったんですか?」

「うむ、滅多に現れない神布が、行ってすぐに見れたのでな。アルトス殿が、"意地を張らずに手を取り合えと神がおっしゃっているのかもしれん"と、乗り気になってくれたのだ。今の所順調だ。後は双方の民の理解をどこまで得られるかだ」

それは良かった。スカルと和解できれば、ネスルズに留まったフォンスさんも嫌な思いをしなくなるだろう。

 「これは土産だ」

手の上に乗せられたのは、白くて丸い、テニスボールくらいの大きさの毛玉だった。

「すっごいふわふわしてますね」

「白いうさぎで作ったものらしい。とても愛らしくて、1匹持って帰りたいと願い出たら、ネスルズは暑過ぎてすぐに死ぬぞと言われてしもうてなあ。これは狩りで捕った物を加工した飾りなのだが、生きたものの代わりにいくつか貰った」

「…え、生きてるのが可愛いんじゃなかったんですか?」

これは思い切り死んだうさぎの皮をいだものだろうに。良いのかこれで。

「最初はギョッとしたがな。だが彼らはこれらを狩ることで生きているのだ。自分の趣味に合わんからと言って、全てを拒否していては歩み寄ることもできん。それによく見るとこれはこれで可愛らしいと思わんか?」

「ええ。紐をつけて、鞄とかに結んだら可愛いかもしれませんね」

そういえばこういうボンボンが付いた服や小物が流行った時期もあったなあ。フェイクじゃなくて本物のうさぎ皮なんて、向こうの世界じゃかなり高級だろう。

「ほう?中々良い案ではないか。試しに作ってみてはくれぬか?私の鞄に付けてみたい」

いいけど…、付けてるところをあまり想像したくないかも。こういうものが似合うのは、可愛い女の子だと思う。先入観がないと、何でもできるのか。

「構いませんよ。しばらく暇でしょうから」

「病み上がりに悪いな。お前はいつも面白いものを思い付く。トリフが持っていた、日焼けに効くトゥーロの液も、お前の考えたものらしいな?ネスルズでは王宮に篭っておったために、雪に照り返された日差しですっかり焼けてしもうたのだが、よく効いたぞ」

トリフさん、貴族のぽっちゃり大臣にも売り込んだのか。本当に商売上手だ。

「私が一から考えたんじゃないですけどね。うさぎのボンボンも、トゥーロも、元の世界では似たものがあったんですよ」

「代用でもよく思いついたものだ。トゥーロの液は、帰宅してすぐ妻に教えたら、早速トーヤン人の集まる郊外まで買いに行きおったぞ」

ぽっちゃり大臣、結婚してたのか。まあ宰相をするくらいだから、それなりに年齢はいってるのだろうが。奥さん、どんな人なのか見てみたい気もする。

「貴族の奥様方に広まったら、トリフさんの店、大忙しになるでしょうね」

「そうだな。商店が活気付くのは良いことだ。スカルだけでなく、トーヤンとも交流が深まる」

「ふふ…、トリードさん、観光大臣も兼任できそうですね」

 だんだんとネスルズのギスギスした空気が緩和されていくのを感じた気がした。







 フォンスさんの家に戻ってから約2週間、何の変哲へんてつもない穏やかな生活が続いた。王宮はアメリスタの件が着々と進み、相変わらず忙しいようだが。

 そんな中、フォンスさんも他の人と同様に忙しいはずなのに、何故か毎日家に帰って来ては一緒に夕食を摂って、前と同じように隣合わせのベッドで眠る。それを素直に嬉しいと思う反面、まるで別れが近いから気を使ってくれているような気もして、少し寂しくもあった。

 もし私の考えた方法で元の世界に帰れたとしても、私がこの世界にいる理由であるフォンスさんが、はっきり"側にいて欲しい"と言ってくれないと、遺骨を届けた後こっちに戻ってくるなんてできない。私からこの世界にいたいとは言えない。本物の奥さんになれなければ、ただの居候だからだ。そんなのお互いのためにならない。

 危険な思いをしてきたのだからと、少しは恋愛の吊り橋効果も期待していたが、本当に何の変哲もないのだ。あったとすれば、バリオスさんがエレクトリックガード(仮)3号の使い心地を聞きに訪ねて来て、トニーに貸したまんまで分からないと言ったのに、しつこく何か気付いたことはなかったかと聞き出そうとするから蹴り出したことくらいだ。40越えたオッサンに、"人見知りするから聞けない"なんぞ言われて鳥肌が立った。だが肝心なフォンスさんとは何の進展もない。

 そしてアメリスタから条件付きの休戦要請が正式に届き、エンダストリアもそれを受け入れることが決まったとフォンスさんの口から聞いた時、私の中に"諦め"という言葉が浮かんだ。どうせアメリスタの地下で玉砕を悟ったのだ。今日まで好きな人と変にギクシャクせず、穏やかに結婚生活シミュレーションを続けられただけでも幸せだと思う。

 不思議と悲しくなかった。切ないけれど、今までありがとうという感謝の気持ちと、身の丈以上には頑張ったという満足感の方が大きかった。

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