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用無し女の奮闘生活  作者: シロツメ
其の日暮らしの章
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世の中所詮そんなもの(6)

 目の前の国王は、70代くらいに見えるおじいさんだった。眉間に刻まれた深い深いしわが人生の苦悩を感じさせた。本当は見た目よりもっと若いのかもしれない。苦境に立つ国の王として、日々相当なストレスがのしかかってそうだ。

 「そなたが此度こたび異界より召喚されたという者か」

口を開くだけで圧倒的な存在感がある。これが王というものなのか。会社の社長くらいの雰囲気だと思っていた私は、今更自分が王族というものをかなりナメていたのだという事実を知った。

 苛立っていると聞いていた大臣らしき人達の視線が痛い。

 約束通り側に付き添ってくれたダントールさんが横で私を見たのが分かった。せっかく作ってもらった機会を、緊張で駄目にするわけにはいかない。

「はい…」

声は震えてなかっただろうか。昨日頭の中で色々考えていたことがぐちゃぐちゃになった。

「名はサヤ、だったか」

「はい」

「召喚から一晩経ったが、やはり我が国に与えるべき知識は無いと申すか?」

大方の事情はダントールさんから聞いているようだ。助かった。バリオスさんとしたようなやり取りを国王…いや国王様相手にできるわけがない。

「一般人ですので…戦争のことはわからないんです」

消え入りそうな声でやっと言うと、国王様は低く唸った。

「そうか…残念である。いや、元より無関係の者にすがるべきではなかった」

「あの、本当に私は帰れないのでしょうか」

一番話したいのはこのことだ。危うく忘れるところだった。

「うむ、そのことだが、建国の文献にも王族の伝承にも、帰還方法については記されておらぬのだ。ない、とは言い切れんが、暗闇で書物を読むようなものであろう。それ程に手掛かりが少な過ぎる。のう?バリオス」

国王様の呼びかけに、バリオスさんが一歩踏み出した。

「おっしゃる通りでございます」

謁見の間にいたのか。気付かなかった。相変わらず存在感がない。

 「時にバリオス、余は興味深い話を聞いてな。そなたが自害しようとしたところをこの娘が気付き、事無きを得たと」

「お恥ずかしい話でございます」

バリオスさんはチラリと私の横のダントールさんを睨んだが、国王様にチクった本人は素知らぬ顔ですましていた。

 「陛下、私に発言をお許し下さい。」

「良い」

ここでやっとダントールさんが口を開いた。さあどんどん言っとくれ。私の希望は言わなくてもその回転の早い頭で分かってるみたいだし、私は雰囲気に圧倒されてまともに交渉できそうにない。

「サヤは結果的にバリオス殿の命を救いました。そして召喚に一番詳しいのはバリオス殿です。引き続き文献の調査と帰還の研究を彼に……」

「陛下!」

ダントールさんが言い終わらない内に、誰かが口を挟んだ。

「どうした、ディクシャール」

交渉の途中なのに誰だよ、まったく。 国王様も一々反応しなくていいのに。

「文献を調べ直している余裕などありませぬ!本来ならバリオス殿は責任を取って処罰を受けるべきでございますが、それをはぶいてでも戦力に欲しいのです。最悪の事態は刻一刻と迫っておるのですぞ!」

一番言ってほしくないことを言ったのは、ダントールさんと同じか少し年上くらいの、大柄な男の人だった。鎧をつけているから、この人も軍の幹部だろう。

 「サヤは何も知らない被害者なのだぞ!貴殿はそれを放っておけと言うのか!?」

「綺麗事をぬかすなダントール!得体の知れぬ異界の小娘に、筆頭術師を使わせてどうする?防御魔術を使いこなせる者は限られているのだ。昨日の訓練でも、そこが未熟故に第3隊からつまらぬ負傷者が出たばかりではないか!」

「負傷者のことはこちらの勝手な事情であって、彼女には関係ないだろう!」

「それが綺麗事だというのだ!」

大人の男同士が怒鳴り合うところなんて初めて見た。ダントールさんにもあんな激しく声を荒げることがあるんだ。

 ディクシャールさんという人の言い分は、昨日の内にだいたい想定してあったから特に驚きはしない。でも実際に言われると腹は立つ。

 「得体の知れないって、元の世界にはちゃんと戸籍がありましたし、身元も証明できます!」

あの威厳ムンムンな国王様じゃなきゃ、私だってこれくらい言い返せるんだ。

 相手によって媚びへつらったり強気に出たり態度を変える。人間とはそんなものだ。私も同じ。分け隔てなくとか、皆が幸せに、なんて綺麗事だけではやっていけないことなど、向こうの世界で嫌というほど味わっている。だからディクシャールさんが悪だとは思わない。思わないが今それを主張されると非常に困るのだ。

 「黙れ小娘っ!ここではお前の戸籍などないではないか!平常時ならまだしも、非常時に臣民でもない者へ配慮してやることなどできん!」

「そんな言い方はせディクシャール!」

「戸籍があれば配慮するんですか?」

「何だと…!」

ああもう腹が立つ。無力な可愛い女の子とかどうでも良くなってきた。このムカつきをどうしてくれよう。

「国王様、エンダストリアで戸籍を作るにはどうすればいいんでしょうか?」

苛立ち過ぎて国王様の威圧感なんて薄れてしまっていた。

「無礼な!陛下とお呼びしろ小娘!」

「臣民じゃないって言ったのはそっちじゃない!呼び方なんて一々知らないわよ」

「おのれ、屁理屈をっ…!」

「お互い様よ!」

売り言葉に買い言葉でもいい。チャンスがほしい。帰る方法をきちんと調べるチャンスが…!

 「静まれ!!」

国王様の声が響き渡った。

 ヤバイ…騒ぎ過ぎたかな…?


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