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32.首輪
犬になりたいと思ったことがあった
ずっと忘れてたのに今
違う理由で願って思い出した
そのときの理由から気持ちから
ノートの端っこにそう書いたことまで 全部
帰り道
君の背中が見えなくなった
廊下で君を見かけた
でもすぐにわからなくなった
そんなことを思い出して
あのときは願った
犬になって君の匂いだけでも追いかけたい
今は違う
君の匂い
君の足音
声 てのひら しぐさ
犬になって君だけを覚えていたい
何年立っても忘れない生き物に
なりたい
もうじゅうぶん近づいてると人は言うけど
言葉も戸籍もなくしたいの
君だけに所有されたいの
願うだけなら いいよね?
でも君より先に死にたくないの
ひとりになるのはまだいいよ
でも君がひとりなのは耐えられないの
勝手だよね ごめんね
でもこれは私の夢だから
君には言わないから
願うことだけ許して ね