22.contradictio
僕はきっと
これほど
これほどまでにあのひとを好きなことを
誰にも知られずに死ぬだろう
数十年の後に
ひとりで
あるいは子供に看取られて
すべてを胸に納めて死んでいくだろう
あのひとが知ることはない
疑いもしないに違いない
もしかすると僕は
この気持ちを忘れるかもしれない
耐えきれずに自分から
回路を壊すかもしれない
だってあのひとはこんなにも僕の芯に食い込んでいる
心肺機能とまではいかなくても
生殖機能ならたやすく止まるだろう
それなら生まれた子供のためにあのひとを忘れる日は来ない
あのひとを忘れて
子供に孫に看取られるなんて
死ぬときはひとりがいい
あのひとはきっと泣くから
流せない涙が心の底で凍るから
僕の死なんて絶対に知られてはいけない
事故死は嫌だ
夭折は絶対に嫌だ
老衰がいい
誰もが悲しむことのない死に方をする
心臓も脳も使い切って死んでやる
まだ生きられたのになんて誰にも思われたくない
あのひとが結婚して
子供が生まれて
支えあう家族ができて
少なくともそれまでは平気な顔で生きて
できれば孫が生まれたなんて話を聞くくらいまで
もし意識が混濁してあのひとを呼んだとしても
誰にも疑われないような家庭を築いてから
あのひとと同じくらい大切な家族を作ってから
邪なことを
死でもってあのひとの心に残りたいと
少しでも思ううちは絶対に死ねない