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小は呪いを兼ねる


「いらっしゃいませ~! 何かお探しですか?」  旅行鞄を新調しようと立ち寄った店で、店員はニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら詰め寄ってきた。 「旅行ですね! お客様、脇にでっかく『旅行行くで!』って書いてありますよ! 脇が甘いなぁ~!」 「脇なら見えないでしょう。それに全然おもしろくないですよ」  モツコが呆れて言い返すと、店員は急に表情を消し、手元にあった極小の鞄を振り上げた。 「じゃあ、これが当店一番の『衝撃』です!!」


 フルスイング。  小さな鞄がモツコの側頭部を捉えた。衝撃で火花が散り、意識が遠のく。「小は小を兼ねる・・・」という店員のうわ言を最後に、モツコの世界は暗転した。

 「あ~・・・気絶したように眠ってた・・・」  次に目を開けたとき、モツコは新幹線の座席にいた。首にはあの店員に無理やり売りつけられた、妙に重い極小の鞄がぶら下がっている。 (継げ・・・継げ・・・) 「・・・不吉すぎる!」  鞄の奥底から低い声が聞こえてくる。あまりの気味悪さにスマホで検索すると、幸運にも(あるいは不運にも)次の停車駅に「鞄供養寺」があるという。モツコは迷わず立ち上がった。


 お寺の本堂には、耳をつんざくようなアップテンポの雅楽が流れていた。 「はーっ! 鞄の神のお迎えでございますー!」  雅やかな装束に身を包んだ神主が、四体の人形ダンサーを率いて現れる。彼らは優雅に、かつ激しく踊りながら、客席へ飴をばら撒き始めた。あまりにも俗世的な光景に、モツコは呆気にとられる。 「供養フェスかよ・・・。ねえ、代わってくれませんか? そっちの方が楽しそうだし」 「神事ですから代われません!」 「じゃあ、これで!」  モツコは例の鞄を振り上げ、神主の頭に叩きつけた。これぞ、教わった通りの「衝撃」である。 「あいてっ!」  短く叫んで崩れ落ちる神主。モツコはそのまま神主の座を奪い、ノリノリで踊り始めた。


 そこへ、一人の女性客がやってきた。 「鞄の供養に来ました」 「はい、喜んで~! ミュージック、スタート!」  意気揚々とステップを踏もうとしたモツコだったが、流れてきたのは想定外の、おどろおどろしいパントマイム用のBGMだった。 「え・・・? 最悪。もういい、帰る!」  逃げ出そうとするモツコの背中に、女性客が鋭い声を放った。 「待って! 後継者が見つかるまで抜けられませんよ!」  振り返ると、女性客がカツラを脱ぎ捨てていた。あの、鞄店の店員だった。 「あんた、あの時の!」 「実家を継げってうるさかったから、東京で後継者を探してたんです。脇が甘いから、こうなるんですよ」 「私だって嫌だよ!」  モツコが鞄を振り上げて殴りかかろうとした瞬間、店員が「パぁン」と乾いた音で手を打った。



 途端、自分の意思とは無関係に、モツコの体が勝手に動き出した。不気味なパントマイムの曲に合わせ、鞄を操る下手くそなダンスを強制される。 「いやだって〜! 体が勝手に〜!」  店員の冷ややかな視線を浴びながら、モツコの絶叫は無機質なBGMにかき消されていった。

 「小は小を兼ねる」――それは、一度持てば逃れられない、呪われた継承の始まりだった。



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