余が一番であると言え!
赤いリボンのラッピングが目立つ個包装されたチョコたち。
それが入った木箱を抱え、お世話になっているマモンの根城へやって来た。
「マモン、ハッピーバレンタイン!
チョコ作ったから、みんなで食べてね」
ゴスロリのワンピースに身を包む少女の姿をした悪魔は、興味深そうに木箱を覗く。
仕草に合わせて、銀髪のツインテールがふわりと揺れた。
「ほー?ばれんたいんというのは、このお菓子を貰える催しなのか?」
「そうだけど正式には、好きな人に贈るんだよ。
今は、家族はもちろん友人同士で渡したりもするけどね」
「想い人……だと!?」
きょとんと彼女を見つめた。
変なところで反応するものだから、少し意外だ。
普段は、人間の生活には興味なんて示さないのに。
「マモンも作る?」
「なぜだ?」
「え、好きな人がいるのかなって……」
先ほどの反応からして、そういう相手がマモンにもいるのだろうかと思った。
違うのかな。
「……あぁ、居るぞ。
しかし、余の気持ちとは裏腹に随分と浮気性なようだが……な?」
「え?そいつサイテーだね?!!絶対やめときなよ!」
「……そう思うのであれば、なぜそれが出来るのだアリザ」
(ん……?なんでこっちを蔑むように見てくるんだろ……え、もしかして私のこと?!)
「私は浮気性じゃない!
そもそもこれは、いつものお礼で……」
「礼だと?ほんの少しも、本当に余には気持ちがないというのか?!!!
アリザの一番は、余ではない……?」
シュンと眉を下げ、まるで落ち込んだマモン。
何だか悪いことをしてしまった。
「私が言うのも変だけど、落ち込まないでマモン。
マモンには、この領域の悪魔たちがいるじゃない。
たかが、私一人が居なくても」
「違う!!!!違う違う違う!!!
アリザの一番だから、いいのだ!!」
「ッ……?!!ま、マモン?」
マモンの様子が変で、恐れた私は一歩また一歩と退く。
しかし、背中は壁に到達してしまう。
逃げるにも扉までは、距離があった。
「どうして逃げるのだ?
……あぁ、逃げられる足があるからか」
マモンが指を鳴らす。
それが合図となって出現した鎖が、ビュッっと足を絡め取る。
「余が一番であると言えアリザ。
さすれば、この鎖外してやらんでもない。
……このチョコ全て、余のためであろう?」
「……それは」
「言えぬか?余の目の前で恥ずかしい?
余とアリザの仲ではないか!
まあそう言うところも、チャーミングではあるがな」
まさかこんなことになるなんて。
本当にただのお礼のつもりだったとは、とても言い難い。
あまりマモンに嘘はつきたくないが、仕方ない。
「う、うん!!!そう!!
実は、マモンのためなんだ」
これで解放してもらえると、安堵していた。
しかしマモンの視線は、より一層鋭さを増す。
「嘘だな」
「え」
「アリザはわかりやすいからな。
自分に不都合なことでさえ飲み込んでしまう」
「ちが」
「余を騙せると思ったか?!
アリザは、余のためだけに尽力すれば良いのだ!
他の誰かには、絶対にやらぬ!
あぁ、そうか。言えぬなら、その心に"直接"聞けばよいだけ」
絡まる鎖は体を這い上がり、首へと伸びる。
「ま、まさか!!
マモン、やめ!!!?」
「たまたまだが、条件が揃ったな?
愛慕呻吟。アリザの身も心も全て余だけのものである!」
胸が騒つく。
マモンが、マモンを心から欲しい。
欲しくて堪らない。
手が届く所にいるのに、体に巻き付く鎖が邪魔をする。
「……ッ」
「余が欲しいであろう?
でも残念だな。あのチョコは、余のためだけに作られたものではない」
「マモンの、ため……」
「違うのだろう?
アリザにとって余は、替え玉が効くただの"道具"同然。
ハァ……余にとっては、アリザはたった一人の愛おしい人の子であるのに」
「嬉しい……マモンにそう思ってもらえてて」
「でも、失望した」
「……や、やだ!!!失望しないで、お願い。
マモンが、好きだから……」
繋がれた鎖を引っ張られ、マモンの崇高な御尊顔が目前に。
綺麗なオッドアイの瞳が、麗しく揺れる。
ああ、このまま全て彼女のものになってしまいたい。
「好きというのは……本当だな?
その言葉に、二言はないな?」
「もちろん。心からマモンを愛しています。
この身をもって、貴女への愛を捧げます」
「アリザ……あぁ愛おしい余の伴侶。
キャー!!余ってば、気が早ーい!」
嬉しそうなマモンへ跪き、彼女の手の甲にそっとキスを落とす。
「……つ、つまり?」
「い、言わせないでよ……。
バレンタインは、その、私を捧げます」
「ぶべら……ッブフゥゥウウウうう!!!?」
「……ッえ?!!!
ま、マモン?!!!!やだ!!!
鼻から出血が止まらない!!!
誰か!!誰かァァァアア!!?」
マモンは、アリザからの愛情に耐えきれず、大量の鼻血を出して倒れてしまう。
そのことで彼女からの能力は、解けた。
鎖と、愛慕呻吟から解放されたアリザは正気に戻る。
そして、ベッドで眠るマモンを見つめていた。
彼女の手を握りしめながら。
「マモン大好きだよ。
目が覚めたら、ちゃんと言わせてね」
そう微笑んで、そっと頬に口付けした。




