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第3話:生命の清流と【精製触媒石】

 新しい家での一夜を過ごし、俺は翌朝、村の現状把握に乗り出す。当然、リリィが一番に俺の案内役を買って出てくれた。


「アリアスお兄さん、見て。これが、村の一番困っていること」


 リリィが連れて行ってくれたのは、村の入り口を流れる水路。そこを流れる水は、赤茶色の粘土質が混ざり、悪臭を放っている。泥水のせいで水路は詰まり、辺りの空気も重い。


「三年前に地滑りがあってから、山からの水路が泥と石で詰まってしまって……。流れてくるのはこの泥水ばかり。病気が増えて、畑も全然育たないんだ」


 リリィは悲しそうに、小さな手で水路の泥を掬い上げた。俺の新しい家での喜びとは対照的な、村全体の深刻な問題。なんとかしないと。


 そっと泥水に触れ、超錬金術師の目で見極めた。泥は水溶性の低い鉱物と、微量の魔力を帯びた汚染物質で構成されている。物理的に泥を全て取り除くには、大規模な工事と人手が必要で、この貧しい村には不可能だ。別の方法は……。


「リリィ。この泥をすべて取り除くのは難しいけど、泥の性質を変えることはできる」


「性質を変える?」


「ああ。俺の錬金術なら、この汚染された泥を、逆に水をきれいにする『魔法の石』に変えることができるんだ」


 俺がそう言うと、リリィの瞳が再び期待に輝いた。大丈夫、その期待答えるから。

 水路の浄化に必要なのは、大量の魔力と、その魔力を精密に制御する集中力。そして、もう一つ。


「リリィ。この水路は広すぎる。俺一人の力だと、魔力を流し込むのに時間がかかりすぎるんだ」


「私、何かできることはない?」リリィが真剣な顔で尋ねてきた。


「もちろんだ。俺の魔力が水路全体に行き渡るよう、リリィの『魔力感知センス』の力が必要だ。君の感知力を使って、この泥水のどこに魔力が足りていないか、俺に教えてほしい」


 リリィは驚いた。彼女は、自分のスキルを『ただの子供の勘』だと思っていたらしい。しかし、俺の超錬金術師としての目には、彼女が持つ微細な魔力感知能力が、この村で最も優れていることが分かっている。


「私、役に立てるの?」


「もちろんだ!君は俺の、最高の相棒だよ」


 俺はリリィと水路の縁に並んで座り、手を握った。彼女の小さな手から、微細な魔力の流れを感じ取る。


「いいかい、アリアスお兄さんの魔力が、泥水に溶けていくのを感じて。もし、どこかの色が濃いままなら、そこが魔力が足りていない証拠だ」


 リリィは深く頷き、静かに目を閉じた。


 俺は膨大な魔力を、細く、均一に水路全体に流し込んだ。


「アリアスお兄さん!水路の、あの真ん中のところがまだ光が薄い!もっと、ゴツゴツした泥のところ!」


 リリィの的確な指示に従い、俺は魔力の流れを調整。超錬金術師の力は、その精密な制御が鍵だ。リリィの存在が、俺の作業効率を格段に上げてくれた。

 魔力の浸透が完了した。俺は、最後の力を込めて、全ての泥水の分子構造を一斉に組み替える。


 《再構成リ・コンフィグ:【泥と汚染物質】を【精製触媒石ピュリファイ・ストーン】へ》


 ゴオオッ、と水路が低い轟音を上げた。


 周囲に集まっていた村人たちが息を呑む中、水路の底に溜まっていた赤茶色の泥が、一瞬で純白の結晶質の砂利へと変貌した。まるで、水路の底に白い宝石が敷き詰められたようだ。


 その光景を見たリリィは、驚きのあまり、今度は言葉を失う。


 純白の結晶の上を、残っていた泥水がゆっくりと流れ始める。水は、触媒石の上を通過するにつれて、透明度を増していく。まるで、時間が巻き戻ったかのように、水路の終点から流れ出たのは、冷たく、澄み切った清流だった。


「水だ……!透き通っている……!」


「嘘だろう?本当に、あの泥水が……!」


 村人たちは一斉に水路に集まり、長年の渇きを癒すように水を飲んだ。子供たちが歓声を上げて水に飛び込み、喜びの声を上げる。


 村長ヨゼフさんは、水を掬って一口飲み、その場で崩れ落ちた。


「これは、奇跡じゃ……。王都のどんな高位魔導師でも、こんな芸当はできん……」


 ヨゼフさんは、顔を泥水から清流に変貌した水路に向け、何度も深々と頭を下げた。


「アリアス様!あなたは、この村の命を救ってくださった!本当に、ありがとうございます!」


「様は不要です、ヨゼフさん。俺はただ、自分の居心地の良い場所を作りたかっただけですから」


 俺は、傍らで満面の笑顔を浮かべるリリィを見た。彼女の瞳は、まるで水路に流れる清流のように澄み切って輝いている。


「ね、アリアスお兄さん!私、すごかったでしょう?」


 誇らしげに胸を張るリリィの頭を、俺は優しく撫でた。


「ああ、リリィ。君は最高の相棒だ。この仕事は、君がいなければ成功しなかった」


 誰かに必要とされる喜び、誰かの笑顔を自分の力で生み出す喜び。それは、聖剣の鞘として生きていた頃には、決して得られなかったものだ。


 俺の新たな人生は、清流が流れるこの辺境の村で、今、確かな一歩を踏み出した。







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