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第2話  リリィのための、温かい家

 リリィに手を引かれ、俺は村長ヨゼフの家へ向かう。ヨゼフさんは、錬金術師を自称する俺に対し、終始懐疑的な目を向けていた。


「アリアス君。君が求めるのは金銭ではない、静かな住居と、力を試す機会、か……。正直、訳が分からん」


 ヨゼフさんの警戒心は当然だ。この村には、誰かに利用される材料すら残っていない。


「住居なら、村の隅に十年以上使われていない廃墟がある。風が吹けば倒れるだろう。あそこを好きに使ってくれて構わん。ただし、村の資源は一切使えない。全て自前で賄うのが条件だ」


「承知しました」

 俺は即答。


 ヨゼフさんの冷たい視線を受け止め、俺は心の中で決意を固めた。この村の抱える絶望を、俺の力でひっくり返してやる。


 ヨゼフさんの家を出ると、リリィが不安そうに俺の服の裾をぎゅっと握った。


「アリアスお兄さん……あの小屋、本当に住めるの?私、知ってる。屋根に大きな穴が空いてて、夜は風の音がすごくて……」


 リリィの小さな声は、この村の現状を物語っている。彼女が安心できるよう、俺は優しく笑った。


「大丈夫だよ、リリィ。今日中には、君がびっくりするくらい、立派で、暖かくて、絶対に倒れない家にしてあげるから」


「ほんと?約束だよ!」


 リリィは不安を打ち消すように、可愛らしく指切りを求めてきた。俺はその小さな指と固く約束を交わす。大丈夫、絶対守るから。


 リリィに案内された小屋は、想像以上の廃墟だった。壁の木材は湿気でボロボロ。土台は傾き、周りには使い物にならない朽ちた木屑の山。


「まずは、この木材を集めるのを手伝ってくれるかな?」


 リリィは、あの朽ちた木屑を建材に使うことに驚いたようだが、すぐに「うん!」と元気よく返事をしてくれた。小さな体で、彼女は懸命に木材を運んだ。その姿を見ていると、俺の心も温かくなる。


 木材が集まったところで、俺はリリィに改めて言った。


「ここからは、俺の秘密の『魔法』を見せるよ。リリィは、ちょっと離れたところで見ていてくれるかな。驚いても、大きな声を出さないでね」


 リリィはわくわくした表情で、小屋から少し離れた場所に座り込んだ。その瞳は、期待でキラキラと輝いている。


 俺は、集めた朽ちた木材の山にそっと手をかざした。五年間抑圧していた【超錬金術師】の力が、惜しみなく解き放たれる。


(腐敗した木材の分子構造を解析。木材繊維の隙間に、超高密度の魔力結晶体を定着させる。鉄よりも硬く、魔力の通り道を持つ、最高の建材へ)


 《再構成リ・コンフィグ:【朽ちた木材】を【超硬化木材アダム・ウッド】へ》


 朽ちた木材の山から、一瞬、太陽よりも眩い金色の光が放たれた。リリィは両手で目を覆ったが、すぐに指の隙間から光景を覗き見る。


 光が収まると、リリィは「わああっ!」と思わず声を上げた。


 そこには、茶色の木屑はもうない。代わりに、淡い黄金色に輝く、美しい木目を持つ建材の塊が整然と積まれていた。金属のような質感で、叩くとカチンと響く。


 リリィは、恐る恐る近寄り、そっと触れてみた。


「硬い……!石みたい!でも、温かい……。あの、ボロボロの木が、こんなに綺麗になっちゃったの?」


 彼女の驚きと喜びが入り混じった顔は、この上なく可愛らしかった。


「ああ。これは千年経っても腐らない、最高の建材だよ。リリィ、すごいだろ?」


「うん!すごすぎるよ!アリアスお兄さんは、本当に魔法使いなんだね!」


 俺は一瞬で、集めた木材すべてを超硬化木材へと錬成し終え、改築作業に取り掛かった。


 資材が整えば、改築は一瞬だ。俺は超硬化木材を使い、崩れかけた小屋の基礎を補強。壁材、柱、屋根を超硬化木材で再構成し、組み上げた。


 リリィは、その驚異的なスピードに目を丸くして、その場から動けなくなっている。


「すごい……!積んで、積んで、すぐにお家になっちゃう!」


 数時間後、廃墟の小屋は、周囲の村の家とは一線を画す、堅牢で美しい家へと変貌した。窓枠には、通常のガラスの代わりに、魔力で浄化された【透明結晶クリア・クリスタル】**が嵌め込まれ、室内には明るい光が差し込んでいる。


「リリィ、完成だ」


「わあぁぁぁ!」


 リリィは歓声を上げ、俺の手を引いて家の中に入った。床は滑らかに磨き上げられ、壁からは微かに木の香りが漂う。


「ここが、アリアスお兄さんの家!見て、見て!壁がすべすべだよ!」


 彼女は床に寝そべったり、壁を触ったりと、家の中を飛び回って喜んだ。その様子は、まるで夢の城を手に入れたお姫様のようだ。


「ここ、とっても温かいね。私、こんなに立派で、温かいお家、初めて見たよ!」


 リリィの心からの喜びが、俺の胸を満たしていく。勇者パーティーで五年間得られなかった充足感だ。


「ああ。もう、風も雨も、誰も邪魔できない。最高の家だ」


 リリィは、俺の隣に座り込み、窓から見える夕焼けを眺めながら、小さな声で言った。


「あのね、アリアスお兄さん。私、お兄さんのこと、信じてたよ。ありがとう」


 リリィの笑顔と、温かい手の感触。俺は、この小さな村で、ようやく居場所を見つけたのだ。


 俺は、彼女のために、この村を、誰もが笑顔で暮らせる世界へと変えていくと、心に強く誓った。




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