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しいな ここみ様主催企画参加作品

幸福者


40代半ばで仕事をリタイアして、リタイアする10年程前に購入した孤島に引きこもる。


1番近い有人島から数千キロ離れている絶海の孤島。


その孤島の1番標高が高い場所に半地下式の家を建て、持ち込んだ大量の本を読みながらの暮らし。


食料や生活必需品などは1番近い有人島が属する国の海運会社と契約して、2ヵ月に1回運んでもらっていた。


それがある日の夜、何時ものようにラジオから流れて来る音楽を聴きながら読書をしていたら、突然音楽が途切れ臨時ニュースに切り替わる。


切り替わって流された臨時ニュースは、C国の細菌研究所がまた未知の病原菌を流出させた事を知らせるもの。


その未知の病原菌は致死率が99.99パーセント以上の凄まじく凶悪な物で、あれよあれよという間に全世界に感染が拡大。


此の病原菌に感染すると、感染直後から倦怠感を感じ始める。


倦怠感を感じ始めてから一日二日経った後、体温が40度以上になりそのまま体温が下がることは無く、息を引き取るという。


臨時ニュースが流れた後、今まで傍受できていた各国のラジオ放送が次々と傍受できなくなる。


ラジオ番組が傍受できなくなっただけで無く、2ヵ月に1回来島していた食料や生活必需品を運んで来ていた船が来なくなった。


それが3年前、此の島が絶海の孤島だったのと気流の関係だと思うが未だに私は感染していない。


感染はしていないが死にかけているのは同じ。


食べ物が無いのだ。


2ヵ月に1回補給してもらっていた食料は多少余裕を持って運んでもらっていたし、家庭菜園も行っていたけど焼け石に水。


最後の缶詰を半年程前に食べた後、島の食べられそうな植物や虫などの全てを、口にするようになる。


魚を釣ろうとしたが釣り道具が無い、元々此の島で引きこもる事を選択したのは、日がな一日読書三昧するためで釣りをしたくて来た訳じゃ無いから。


木の枝に紐を結わえ安全ピンを釣り針の形にして海に垂らしたけど、そんな即席の釣り竿にかかる間抜けな魚なんて皆無。


だからこのまま餓死するのかと思っていた。


そうしたら今日の朝、何時ものように島を取り囲む海を眺めていたら、島のチョットだけある砂浜に貨物船が打ち上げられているのが目に入る。


その貨物船の中に入り厨房を物色したら、賞味期限は切れていたけどレトルトカレーやパックのご飯を見つけた。


見つけたレトルトカレーとパックご飯を湯煎して、久しぶりにまともな飯を食す。


「美味いなー」


思わず独り言を呟いた。


それから貨物船から持って来た全てのレトルトカレーとパックのご飯を湯煎する。


もう明日からの事を考えなくてよくなったから。


貨物船のそこかしこに乗組員だった者たちの痕跡が残っていた。


その痕跡と共に未知の病原菌も残っていたのだろう。


カレーを食べている途中気がついたのだ、身体に倦怠感を感じている事を。


だから動けなくなる前に、貨物船から持って来たレトルトカレーとパックのご飯の全てを湯煎して、高熱になり動けなくなる前に食べ切ろうと思っている。


昨日までこのまま餓死するのかと思っていたのに、好物のカレーを腹いっぱい食って死ねるなんて私はなんて幸福者なんだと思いながら、今しがた湯煎したレトルトカレーを熱々のご飯の上にかけた。






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― 新着の感想 ―
「あっ!」と電車で声が出そうになりました。 短いのに納得感と不思議なカタルシスがあり、タイトル含めて巧妙なSFだと思いました。
何が幸福で、何が地獄なのか……
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