エピソード5
1階のキッチンにつくと、カムが川魚が6匹入った籠を持って立っていた。
「言われた通りとってきた。」
「おー流石はカムだな、6匹も捕まえてくるなんて」
そうベンが褒めるとカムは一瞬だけだが笑顔になった、、気がする。
「よし、じゃあカム、ジェイドから薪をもらってきてくれ。ハルヒコは俺の手伝いだ」
そういうとカムはちゃっちゃと外のジェイドの元へ行った。
「ハルヒコ、上の戸棚の中に火打石があるからそれを使ってかまどに火を起こしてくれ」
そういうと、ベンは魚の締める作業に入った。
戸棚を開けると、中には火打石のほかに、塩と胡椒、乾燥させたハーブが数種類入っていた。まあ隠れ家のわりに調味料がかなりそろっているんだなと感心した。
だが火打石なんて使ったことが無い。どうやって使うのかわからず、ベンに訊こうと向かったがカムがやってきて俺の手から火打石を奪い、こうやるの、と火をシュボッと付けた。
「ありがとう」
「別に、もうつけ方はわかったでしょ?次からは手間かけないでね。火はついたから、いい感じになったら薪をくべて」
そういうと少し離れたダイニングテーブルで本を読みだした。何というか、彼女はクールだ。悪い人ではないんだろうが、少々口が、、、なんて思いながらかまどに薪をくべた。
ベンが魚に塩を振りフライパンに乗せ、裏返して焼き、完成!と言った。二尾できたところで皿に乗せ、次の魚を掴む。
俺は、戸棚の中のハーブや胡椒のことを思い出した。あれ使っていいのか?
「ベン、棚にある胡椒とかハーブ使ってもいい?」
「?あの戸棚の中のよくわかんない奴のことか?てかそもそもあれ食えんのか?」
もしかして、胡椒とハーブを知らないのか?俺の世界では胡椒のために大航海する人まで出たほどの物品だというのに。ハーブはそれぞれ違う風味や香りが楽しめる最高の代物だというのに。
「俺もちょっと料理してもいい?」
「ベンの料理が食えないの?」
威圧的にカムが聞いてきた。それをベンがまあまあとなだめる。
「しかし、料理なんかできできんのか?」
「昔よくやってたんだ」
「ふーん、まぁお手並み拝見だな」
こう見えて、あのクソ会社に入るまで、割と凝った料理を自宅で作っていた。大学の時は社会人時代ほど忙しくなく、むしろ暇な時間がいくらでもあった。そのため、自分なりにレシピ本やサイトを見ながら料理という趣味に没頭していった。
俺は油を敷いたフライパンで塩と胡椒を揉みこんだ魚を焼く。火が通ったらハーブを加え、香りを立たせる。簡易的だか今あるものでは、これぐらいで上出来だろう。
出来上がった魚をさらに乗せ、ベンの前に出す。
「すげぇいいにおいがする」
フォークでほぐれた身の部分を食べようとするが、そこでカムが待ったを出した。私が先に食べると言い出した。まぁどっちが先でもいいんだが。
パクっと口に入れたカムは一瞬目を丸くして、魚と俺を交互に見る。なんだよ。また一口、また一口とどんどん口に運んでいく。
「おいおい、うまいのかよ、俺にも食わせてくれよ」
はっとしたカムはベンに食べかけた魚を差し出す。そして、ベンも一口食べてみると、みるみる頬が赤くなる。
「ハルヒコ、お前こんなにうまいものが作れたのか!どうやったのか教えてくれ!」
料理を作ってうまいと言われたのはいつぶりだろうか。なんだか久しぶりの感覚に心がジーンとする。
「おい、俺抜きで昼飯にすんなよ」
そこにジェイドが顔を出した。さっきまで薪割をしていたようで、汗でぬれた額をぬぐっている。
「ジェイド、聞いてくれよ!ハルヒコの作った焼き魚めちゃくちゃうまいんだぜ!」
それを聞いたジェイドはこちらを一瞥して言った。
「人間の作った飯なんて食えるかよ」
「おいしかった。毒も入ってない」
毒見だったのか。それでもカムもおいしいと感じてくれているんだとうれしくなる。が、ジェイドには食べてもらうことは、この様子から不可能だろう。何となく寂しい。
「そういう問題じゃねえ!お前らには亜人のプライドは無いのか!?」
「だって、これまでのことにハルヒコ関係ないし、」
「っ!、、、好きにしろ!」
そういうとジェイドは階段を上がって行ってしまった。
「大丈夫だ。また腹が減ったら、あいつは勝手に降りてきて勝手に食う。だからあいつの分も作ってやってくれ。あいつあんなこと言っていたが、目はしっかり、この魚に釘づけだったから」
言われた通り、残りの魚を料理し、ジェイド以外の自分たち3人は自室で仮眠をとることにした。
夜になり、夕飯の手伝いためキッチンに向かうと、ジェイドのために残してあった魚がきれいになくなっており、ベンと顔を見合わせて笑った。