第1話
読みやすさ重視
化物皇女の次回作
赤い空と薄い赤の雲。
視界に映るのは、濃淡で識別された赤の世界。
グゥゥゥゥゥ…
強烈な空腹感が、腹を鳴らす。
何を食べ物を探さない、と。
周りを見渡し、引きずる足で歩く。
建物の影から、タンドリーチキンが現れた。湯気が上がっている。揚げたてだろうか。
「あ!おったおった!はぁ〜ほんま探し回ったで?自分、スマホ落として動き回んなや。どこにおるか、分からんやろが」
不思議なこともあるものだ。
タンドリーチキンが関西弁で喋っている。
「んじゃま、また会おな」
ダンッ
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「―――であるからして、こうがこうなり、これがこうなるわけだ。よし次の問題を〜今日が3月8日だから、3×8の24で、出席番号24番…よし、水野!答えられるかー?…ん?おーい、水野ー?聞いとるかー?」
☆キュピーン☆
「――へぁ…?」
「おいおい、大丈夫か?顔真っ青だぞ?」
「あーは、はは。大丈夫、大丈夫です。あと、答えは3です」
「おお!流石、水野!体調悪くても頭の良さは健在か!んじゃー次の問題を」
教室の中、黒板に問題を書く先生。
授業は何事もなかったかのように進んでいく。
周りを見渡す。
斜め後ろの席に座る平野と目が合う。
平野は、ただでさえ細い目をさらに細め、笑う。
ピンポンパンポーン↑
突然の校内放送。
『えー皆さん、校長です。落ち着いて聞いてください。
校内に、不審者が侵入しました。えー生徒の皆さんは先生の指示に従い、すぐさま、移動を始めてください。授業中の先生方は、緊急時の対応を心掛けてください。
繰り返します。校内に』
ピンポンパンポーン↓
校内放送が終わる。
ざわつく教室。
それは、パニックのようなものではなく、物珍しさから来る好奇心が原因だ。
「よ、よよし!みんなまずはお落ち着けよー!今から、体育館までぜ、全員で移動する。みんな、教室から出て、先生の後についてこいぃ!」
誰よりも慌てふためく先生。
生徒の何人かはくすくすと笑いながら、全員教室から出た。
廊下には各クラスの生徒が出ていた。
先生たちの点呼が終わると、前のクラスが動き出した。
それに、クラス全員が2列になって付いていく。
緊張感はない。
友だち同士で話しながら、前の子に付いていく。
授業中止になってラッキー
不審者、マジ感謝
休校とかなったらマジ最高じゃね?
うっわ、今日バイトだわー
ま?休めよ休め
廊下、階段、渡り廊下を通り過ぎ、目の前に体育館が見え始める。
保健室前の廊下を出て、渡り廊下を過ぎれば、体育館だ。
二人の男子生徒が、会話をしながら、廊下を出た。
渡り廊下に張られた年季の入った木の床がきしむ。
一緒に歩く〝3人〟
誰かが列を離れて、話をしにきたのだろう。
後ろの女子生徒はそう思った。
だが、服装が明らかにおかしい。
制服と違うスーツ姿。
瞬間、理解する―――より早く、〝不審者〟は、近くにいる男子生徒の首に噛み付いた。
異常に発達した犬歯が、深々と喉元に突き刺さる。
「か、はっぁ…」
噛まれた生徒の最後の声が漏れ、頸動脈から血が迸る。
ビチャッ
後ろにいた女生徒の顔に血がつく。
突然の出来事に、フリーズしていた脳が、血の生暖かさとともに、解凍する。
「きやぁぁぁぁぁ!!!!!」
悲鳴は、気付け薬となり、固まっていた脳たちを一斉に目覚めさせる。
蜘蛛の子散らすように、逃げる。
「みんな!早くこっちへ!」
先導していた別クラスの先生が、体育館の中から声を上げる。
緊張感はマックスだ。
目の前でクラスメイトが喰われている。
その状況に、初めに悲鳴を上げた女生徒は腰が抜け、動けなくなっていた。
手を貸すものは誰もいない。
仲の良い友だちも我が身可愛さで、一目散に体育館の中へ逃げ込んでいた。
食卓に並ぶ数種類のおかず。
〝不審者〟にとって、この場所が食卓。
そして、生徒たちはおかずだ。
活きの良い魚を踊り食いした後は、肉を食べたい。
ほかほかの湯気と一緒に、甘辛い照り焼きの匂いが鼻口をくすぐる。
〝不審者〟の首が不自然に曲がる。
立ち上がり、匂いのする方へ歩き出す。
女生徒は、漏らしていた。
クラスの子たちがトイレに行くって言った時、一緒について行けばよかった。
そう思った。
恐怖は全ての身体機能を麻痺させる。
脳は自分を守るため、現実逃避を始める。
女生徒は、少しずつ近づいてくる〝不審者〟をただ呆然と眺める。
ああ、私、ここで死ぬんだ。
漠然とそう思った。
だが、そこに、救いの手が差し伸べられる。
「おっらぁ!!」
金髪にピアス。
見るからに不良の男子生徒が、〝不審者〟に飛び蹴りをかます。
「馬鹿が!何してんだよ!」
「え…?あ、れ?早乙女くん…?」
「ちい!おい!しっかりしろ!」
「えへへへ…早乙女くんだぁ〜」
「チッ!くそが!よぃっしょ!」
舌打ちをしながらも、女生徒を抱き上げる。
「お前ら!どけ!」
お姫様抱っこのまま、早乙女は、体育館へと急ぐ。
蹴られた相手は、まだ、地面に寝そべっている。
逃げ切れる。誰もがそう思った。
早乙女は、喰われた男子生徒の横を通り過ぎようとした。
目に見えた希望は、油断を招く。
事きれたはずの生徒が動き出し、早乙女の足首に喰らい付いた。
「いってぇな!!はぁ!?お前なんで生きてんだよ!おらぁ!!」
もう片方の足でド頭を蹴り上げる。
血を流しながらも、早乙女は、体育館までたどり着いた。
蹴られた〝不審者〟と〝生徒だった者〟は、普通ではあり得ない角度に身体が曲がっていた。
「あーやっぱ駄目やったかぁ〜噛まれてもうた」
高台から双眼鏡で学校の様子を覗き込む平野。
「はぁーほんっと趣味悪い」
悪態をつく水野。
なぜ二人がここにいるのか?
時は少し前に遡る。
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ピンポンパンポーン↓
校内放送が終わってすぐ、生徒たちは教室を出た。
先生たちの点呼は、生徒の名前を一人ずつ呼んでいき、返答することで完了となる。
水野と平野は、クラスメイトに
「トイレ行ってくるから、返事しといて」
と、お願いして、トイレに隠れた。
そして、全員が動き出した後、こっそりと校舎から脱出。
茂みに隠しておいたバイクに乗り、学校から逃げ出していた。
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一ヶ月後…
世界は変わり果てた。
校内に現れた〝不審者〟は、何かに感染したゾンビだった。
ゾンビに噛まれた者は、同じくゾンビになる。
情報過多の今の世界で、それを知らない人の方が少ないだろう。
ただ、世界が変わる前、ゾンビが世に出始めた頃、SNSは盛り上がっていた。
一人のインフルエンサーがこう言った〝ンザンビ〟と。