7 我らはクリスタルウォーカー
ふとケルトは山脈の方に目を向けた、その山々ふもと北西部から一筋の黒い煙が上がっていた、それをみたケルトは苦虫を噛み潰したような顔をする、
「グロリオサ、あの煙見えるか?」
グロリオサは一瞬だけ煙をみてすぐに端末に視線を戻した
「あぁ、前はもうちょい白い煙だったような気がするけど、なんだっけ、あのー、ほら、頭のおかしそうなやつらが集まってる建物でしょ、何してるんだろうね」
「エクス教の奴らだ、ちゃんと名前覚えとけ」
ケルトのあからさまな機嫌の悪さに、グロリオサはドン引き
「あんたさ、前から思ってはいたけどなんでそんなにあの集団たちのこと嫌ってるわけ?たしかにあいつら確かに不気味でなに考えてるかわかんないけど特に何かしたってわけじゃないよね?」
「気に入らないものは気に入らねぇんだよ、だけど絶対にあいつらは罰当たりなことを裏でやってる俺にはわかる、あの目はそういうことをしているから紫色になってんだ」
「あの十字模様の赤紫の目?凄く綺麗だしカッコいいじゃん、あんたってほんと偏見ばっかり、エクス教の人だからじゃない、ただ単に紫瞳の民っていう民族が割合多く在籍してるだけでしょ?」
「割合多く?あの不気味な赤いフードをつけた集団の中に紫以外の目はあったか?いやない、全員があの紫の目なんだ、クソいけ好かない連中だぜ」
「あんたがどう思おうと彼らは私たちの国にしっかりと納めてるものは納めてる、私たちと同じくらいかそれ以上の額をね、
グロリオサはため息をつきそれ以上なにも言わず端末を取り出してピコピコいじり始めた。
ここ最近活動が活発化している「紫瞳の民」とかいう怪しい集団、噂じゃなにやら実験をしているらしい、なんの実験かはわからないが、俺の国、ダーテ国に多額の寄付をして上のやつらは黙認したという噂だあの銭ゲバどもめ、胡散臭いことを俺らの近くでやりやがって、俺の勘がいってるが絶対にやつらは近いうちに何かやらかす、絶対だ!俺の勘は良く当たる、おばあちゃん譲りの第6感だ、おばあちゃんの勘は良く当たるし、たまに未来が見えているみたいだった最後ボケてあんぽ柿を喉に詰まらせて死んだが…
ケルトはフィルターギリギリまで吸い、白いため息をつきながら足で残り火を消し潰した、
しばらく経つと遠くからゆっくりと羽ばたきながら金色の何かがケルトの近くにきた、ケルトはそれを見るなり先ほどの煙を見たときより嫌な顔をした、当たり前だ、この金バエどもが現れた時ははろくなことがない、小さな人の形をしてヒレみたいな羽を使って飛び回る、人はこいつらを愉快な演奏団「エリオネ」と呼んでいるが正しい名前は、人をおちょくる金バエ、人がイラついていたり落ち込んでいるときに近づいてきて、感情を逆撫でするような曲と言語のわからない歌を歌い始める、一回本気でこいつらを潰そうとあらゆる手を使ったがなぜか捕まえることができない、今回もそんなかんじで人をおちょくるのかとケルトはうんざりしていたが少し様子が違うことに気づいた、
そのエリオネは演奏もせず歌いもせずある方向を指差しながらケルトを見ていた、なんだこいつ、金バエの中でもこんな静かで不可解な行動をするやつがいるのか、
ケルトはじっと眺めていたがエリオネはケルトが何もしないことがわかるとケルトの耳を引っ張った、小さい癖になかなかの力でケルトはよろける、
「おい!なにしやがる!」
ケルトはエリオネを叩こうとしたが避けられ誤って自分の耳を叩き、こみかみに血管が浮く、だがそれでもエリオネは止めずケルトの耳を引っ張る、しばらくケルトは格闘したがエリオネの耳を引っ張る行為を止めさせることはできず
「わかった!わかったから!行くから止めろ!!」
言葉が通じたかどうかはわからないがエリオネは引っ張ることをやめ向こうの方へ指を差しながらケルトをみた、ケルトは舌打ち悪態つきながら仕方なくエリオネが指し示す方向へいくことにした、グロリオサは気にもとめず端末をいじっている、
北西の方角へ歩き続けた、あのエクス教の建物に近い方角だ何度か来た道を戻ろうとしたがエリオネに止められてしかたなく進み続けた、似たような風景の連続なのだが何度もケルトがついてきてるのを確認して進み続けた
10分ほど歩いただろうか
前方に何か汚れた白い布の塊があるのが見えた
近づくにつれて布ではなく人の形にみえてきた、
珍しいな、食い荒らされていない人間の屍はと思いながらケルトは近づく、虫たちがたかっていないところをみると最近の仏なのだろう、うつ伏せなので性別はわからないが髪が長いので女だろうかなり若い、白い服に白い肌だったから全身が真っ白に見えたのだ、
エリオネは静かにそれを見守っていた
死んだ人間をみるのはそこまで抵抗はない、ヤジュウクというモンスターを狩るこの仕事柄だ、心臓があるもの全部生物だ、人間もただの生物
なんまいだーと呟きケルトは仏さんを足で押して仰向けにした
どうやら顔立ちからして少年だったみたいだ、外傷はないが着ている白いポンチョのようなものが汚れ、靴は履いておらず足裏はボロボロ血が滲んでいる、ひたすら歩いてきたのだろう、
持ち物は一切なし、賊にでも盗られたのだろうか、
ケルトは少年の顔についたゴミに気付き思わず声を漏らした、
なんたることだ
ゴミではない、少年の片方のまぶたが糸で縫われて塞がっているのだ、こんなのは今までみたことがない、なぜ縫われているんだ、なんのために、ケルトは良くみようと少年の顔を覗き込んだ、すると突然
ゴホッっと少年が咳をした、
「おい!こいつ生きてんじゃねぇか!!!!」