6 我らはクリスタルウォーカー
その後の動きは早かった
グロリオサは一瞬で両目を捌き腰についてるスプレーで何かを目に噴霧した
「これでよしと、後は本部に連絡するだけだな、おい、いつまでうなだれているんだ早く立て、おまえが追い詰められてるんじゃないかとおもって足骨折してでも来たんだぞ」
ケルトは反応せず座りこんで地面を見つめていた
「まったく、しょうがないやつだな」
グロリオサは目玉に生えている神経なのか筋なのかわからないやつを2つあわせて縛りケルトの首にぶら下げた、そんなことをされても何も動かないケルトの姿を見てグロリオサはゲラゲラとひとしきり笑っておちついたあと首元に触れ
「シェルマ!目標を仕留めた!狩猟終了早く来てくれ!」
数秒遅れて
「……ちょっと連絡遅いよ遅すぎだよ、一体なにしてたの?心配してたんだからね、何回も呼びかけしてたし」
どこか幼げのある鈴のような声がリンクの向こう側から返ってきた、
「すまん!モングラドゥが事前の情報と違っていたんだ!報告してたらリーダーにばれて止められるかなって思って」
本部の声は少し黙っていたが
「、、まぁでも無事で良かったよ、ケルトも無事なんでしょ?」
「あぁもちろん!ただ少し塞ぎこんでいるけど無傷だ!」
「……なんで塞ぎこんでんの、まぁ良いけどあと数分遅かったらリーダーに報告してたんだからね、今日はリーダーいないからって、ダメだよちゃんと報連相して、今日の現場の指揮権はぼくなんだからまったくこういうことばっかりしてもし大事になったらどうなってたことか秘匿回線にしてこっちのリンク切ってさ支援も何もできなくなるのになんでwhづql」
ぐちぐちちまちまずっとぶさくさ呟いてると、ケルトが回復してきたのか首に赤い目でできたネックレスをぶら下げ立ち上がり
「おいシェルマ、今日のヤジュウクのGEM、なんカラットか当ててみ?」
ずっとぐちぐち呟いていたシェルマと呼ばれた声は戸惑いながらも
「え?当てるもなにも3000ちょいでしょ?」
「秘匿回線にしたのは何もただ亜種だったからじゃねぇ、カラット数も桁違いだったんだ」
「嘘!え何カラット?んー4500くらい?」
「6700カラットだ、すげぇだろ」
「え!久しぶりの6000カラット超えじゃん!すぐにそっちに回収に向かうから待っててー」
ケルトは回復したらしい、足や尻についた砂を払い首にぶら下がった赤い2つの目を手に持ちグロリオサに向かって
「この首と胴体どうする?見た目気色悪いし岩の下にいる虫しか食べてなさそうな顔だし絶対肉臭そうだよな、おまえの妹が飼ってるペットこれ食うかな」
グロリオサは洞窟の出口にいたが
「ん?グレイシアの?あー、ちょっと聞いてみるね」
小さい端末を首無しトカゲに向けフラッシュを焚いて少しいじったらクスッと笑い
「いらない、ケルト死ねって返信きた」
ケルトは舌打ちをしてモングラドゥの後ろ足を持ち胴体を引きずって洞窟の出口の方に向かった
洞窟の中は血の匂いが立ち込めていたので外に出たときの爽快感を息を吸い吐きながらケルトは実感した、遠くの方で銀色の塊が太陽の光でキラキラしながらこちらへ近づいてくる、それを眺めながらケルトは両手の赤い目と足をボテっと地面に落とす
プシューという音とともに着ていたパワードアーマーの全面を開かせて白いシャツを着たケルトが脱ぎ出てくる、
懐からタバコを1本出し口に咥え火をつけた、
「規則違反!狩場でアーマー脱ぐなって言われてるでしょ!」
「堅いこと言うなって、ヤバくなったらまた守ってくれや」
グロリオサはため息をつき、腕のブレードを肘の方にスライドさせ端末をいじり始めた
タバコをグロリオサにも勧めたがいらないと手を振り端末をいじっている、いつものことなので気にせず肺にゆっくりニコチンを馴染ませていく、今日はずいぶんキツかった、ここ最近の狩りは不漁ばかり、500~1000カラットばっかりだったが6000カラットというのは何かの兆しなのかもしれない、けしてモングラドゥは今は旬の猟期ではない、産卵期直前で熟れに熟れまくったときにGEM数値が最高潮に高まる、それでも大抵は2000カラットがせいぜい、なのに事前調査の偵察で3400カラット、ましてや6000超えなぞ亜種だとしてもありえない数字だと思うが、今までの経験からでもそうそうない上がり具合だ、だがこのお陰で俺らは旨い飯が食える、ケルトは空に煙を吐く、
煙がゆっくりと空に上がり消えていく、
東の空には月たちが色づきはじめている
白い月
赤紫の月
虹の月
……今日は3つとも現れる皆月か、
たまに明るすぎて月は白い月だけで良いと思う時がある、
俺は白い月が好きだ、他の月より少し小さいが淡い模様と規則正しく欠けていく姿、特に三日月と呼ばれる状態になったときのシャープな形、滑らかなカーブ、美しい、漢の月だ、みんなは愛着を込めてマキナムーンと呼んでいるが女性名詞なのが気に食わない
虹の月は周期的な満ち欠けもなく常に満月、ただひたすら虹色に光っているだけ、面白みの欠片もない、正直下品だ
赤紫の月は一番おもしろくない、光は一番小さく、常に少し欠け、規則正しい動きもない、現れて消えて昨日は南の空にあったと思えば今日は北の空、まるで空に這いつくばっている虫のよう、