超能力者の井上くんとボク ~力の使い道~
ボクの同級生に井上くんが居る。ソイツはいっつも屋上で電波を受信しているらしい。井上くんは自分のことを『超能力者』と言っている。本当かなぁ。
怪しい奴。だから友達が一人もいない。高校生にもなって恥ずかしい奴だ。おおよそキャラ設定を失敗したんだろう。
ボク?
ボクは……望んで一人を選んだ。決してオタク系ボッチじゃないぞ。洋楽から演劇までなんだって大好きな控えめ高校生。それがボク。ただちょっと口下手なだけだ。コミュ障なんかじゃない。
昼休憩。
長くて退屈。机に突っ伏していると一軍女子に声をかけられた。も、もしかして、揶揄われるのかな……!
「ねぇ遠藤君。遠藤君って何か好きなモノあるの?」
「あ、えと……よぅがく……いや、それは嗜む程度で……」
「なんて?」
(´;ω;`)女子との会話は苦手だ!
ボクは何度も謝りながら侍チョップをして席を立つ。向かった先は――――屋上。
そこには、井上くんが居た。一人半裸で電波を受信している。ほそっこくて枝のような腕がピクリと動いた。
「むむ、君は……同級生の、遠藤君。また来たのか」
「こ。ちぃ、す……」
半裸の井上くんがおにぎりを持って近づいて来る。実はこれが二度目。昨日の昼間も、偶然電波を受信している井上くんと喋っていた。不思議と、彼との会話は出来た。動物に話しかける感覚かもしれない。井上くんからは人間的な存在を感じなかったから。
渡された三角おにぎりを割く。昆布が入っていた。
(昆布か、ボクは鮭が好きなんだ!)
そういう他愛もない話題を続けられる人が、会話の続く人なのだろうな。井上くんはこっちをじっと見ている。
「え、何……ボクの、おにぎり……」
「鮭が良いんだな、ならそう言え、遠藤君」
「?」
おにぎりの具が鮭に変わった。一瞬のことだった。
「す、すごい! 井上くん! 昆布が鮭に!?」
「俺は超能力者だからな。しかし……」
「?」
井上くんの自慢が始まるかと思っていた。彼はとても悩んでいるみたいだ。
「力の使い道が分からない。おにぎりの具を変えたところで世の中の何の役に立つ。俺には俺の、力の使い道が分からないんだ」
「あー……」
半裸の彼はくしゃみをした後、制服を着る。一応寒いという感情はあるらしい。良かった。ボクは提案した。
「犯罪者を一掃するとか!」
どうだ、立派な事だろう。
「うむ。犯罪者の本元が分かれば芋蔓式に消せるかもしれない。しかし、奴らは毛細血管の如く張り巡らされていて、意外と社会との関わりも根深いと聞いた。消してしまって良いのだろうか。もしかしたら君の家族の存在にも関わっているかもしれない」
「ボクの家系に犯罪者は居ないよ」
井上くんは、「そういうことでは無く……」と悩み出した。じれったくなったボクは、今度は違う提案をする。
「じゃあ金井先生の性別を変えてみるとか!」
「もとからあの人には性別らしい性別なんて無いじゃないか」
「そっか」
金井先生。戸籍上は男性。でも、女装して学校に来る生徒指導のゴリマッチョ。わざとそうしてる説とガチ説がある。遅刻すると男女問わずキスされちゃうんだ。
ひゅっと、良いことを思いついた。
「駆けっこで、遅い奴の足を速くしようよ!」
「それは何の役に立つ」
「学年で一番、足の遅いボクの役に立つ!」
井上くんは「たかが駆けっこだ……」と腕を組んで悩みこんでしまった。細っこい彼の身体を強めの風が押した。彼は風に抵抗することなく、稲穂のように揺れている。少しばかり動きがおかしいから笑ってしまった。
「これは風との連携に適したフォーム。バカにするな」
「ご、ごめん。でもおかしくってぇ……」
ボクが笑っているのを、真剣に見ている感じの井上くん。
「さっき。君は犯罪者を消したらって言ってたな」
「う、うん」
少しばかり緊張があった。なんだか背中がピリピリする感覚。足先がムズムズするような……なんなんだろう?
「……やっぱり止めた方が良いな」
「え。なにどういうこと?」
「この世界に君が居るということ。それがこの世界の真実さ。人生のどこかで迷ったらこの言葉を思い出して」
(?)
よく解らないけれど、その言葉を聴いた瞬間。身体の不快感が止まった。犯罪者なんて、全部ひっ捕らえれば良いんだ。それがボクの父さんの仕事なんだから。凄く偉いんだぞ――――
偉い父さん。実は裏で悪い奴らと繋がっていたみたい。「治安のため仕方ないんだ」と言っていた。恥ずかしい。大学生になったボクは、そんな父さんとケンカした。家を出た。嫌いな筈の組織の下っ端になった。
ボクは持っていた拳銃で止めに入った父さんを撃った。致命傷だったようだ。その後のことは憶えてない。気が付けば刑務所の中だった。ボクは人生に迷った。というより疲れた。
(319番。俺は君に語り掛けている)
「その声は、井上くん!」
(君はいつかこの道に辿り着くかもしれない。それを俺は阻止したい)
――――!
「ボクだって、そんな人生嫌だぁああああ‼‼‼‼‼‼」
「お帰り、遠藤君」
気が付けば屋上の上だった。
井上くんはイチゴオーレをチューッと吸うと、ボクに微笑みかけた。
「どうするかは、君次第さ。君がこの世界に居る。それが真実」
「……犯罪者と繋がっている父さんを許すのは難しいよ。でも、非行に走るボクも違う。だったら……」
ボクが答えを言うと井上くんは、「そっか。俺の力が無駄にならなそうでよかった」そう言った。
チャイムが鳴る。
ボクは鮭おにぎりを頬張った。喉がつっかえそうになる。井上くんが新品の水をくれた。生き返る。
井上くんはワープで教室に戻った。ボクは一生懸命階段を駆け下りて教室に戻る。ギリギリ間に合った。
お粗末様でした……!