幕章 嫌な任務
肌を伝う霧雨が、ポツポツと体に絶え間なく降っている。深い森の中や、街中の裏通り、魔獣がうようよいる深い森の中でしか歩くことしかできなくなってからもう何年になるだろうか。こんな損な役回りは、俺が進んで進み出たのと自分のギフトがそれに適しているからだとは言え、他の連中は仕事をしなさすぎだと思っている。自分のほかにこんなに真面目に仕事をするのは、「最優鬼」ぐらいしか知らない。最も、俺たちのような仲間意識の低い連中は、誰かが率先して動かなければ仕事が回らないのも事実なのだが。
「...!!」
急に膨大な魔力反応を感じ、俺はすぐに後ろに後退する。目の前に直径10メートルほどの大穴が出来上がっていた。勢いよく舞い降りてきたこの女は、俺が最も嫌悪するような性格をしている。
「あれー?今日はひとりなんですかあー?いつも連れてる動物さんたちはいないのー?あの子たち可愛いのにー」
「今は隠密行動中だから連れてないだけだ。そんなに派手に動かれちゃ、俺も困るんだけどな」
「ああ、そうだったんですかあー?ごめんなさーい」
この脳足りんな女はいつもこんな態度で俺に付きまとってくる。まあ、こいつも俺が所属している組織の中では働いている方だとは思うが。しかし、舌足らずなこの女のしゃべり方は、非常に癇に障る。
「用がないならとっととどっかに行ってくれないか?俺もお前みたいに暇じゃないんだ」
「そのことで少しお話があるんですー」
そう言って、女は自分の胸元にある衣服の中から、一枚の白い紙を取り出す。俺はその紙を無言で受け取った。その内容を流し読みで読み飛ばし、俺はその紙を女に返した。
「わかった。引き受ける。しかし、」
俺はしとしとと降る霧雨を鬱陶しく思い、近くの大樹の下に腰を下ろす。
「正直、"あの方"の真意が全く読めないね。いったい何でこんなことしてるのか」
この仕事を行うのは初めてではないのだが、やるたびになぜこんな回りくどいことをやっているのだろうという疑問はわく。もっと手っ取り早い方法はいくらでもあるいはずなのに、だ。
「それにしても、お前っていつもこんな使い走りみたいなことしてるのか?」
「うーん、たぶんあたしがここにきて間もないのと、魔法が一番うまいからじゃないですかー?」
「まあ、いろいろ信用されてないってことだな」
この女、最近うちに入ってきた新参者だが、手に持った幾人もの冒険者の首と"あの人"の決定の末、晴れて自分と同じ"二つ名"を得ることになった。しかも魔法の腕も俺よりすごいときた。なのになんでこんな地味な仕事しか任されていないのだろうか。
「まあ、人事に口を出せるほど俺は偉くないけどな」
「うーん?なんのことー?」
「いや、こっちの話だ」
とりあえず、この女といると碌なことにならないから、さっさと消えてほしいと俺は思っている。
「それじゃあ、あたしはいくね。がんばってねー」
そういうと、女は一瞬で俺の前から姿を消した。本当に頭の良さを犠牲に魔法力を手にしたような女だ。あれでもやっていけるというのだから、本当に才能というものは残酷だ。
「さて、それじゃあ始めますか」
俺はそんな在りし日の懺悔を胸にしまって、パンパンと2回手を叩く。そうすると、目の前から雨に濡れた大型の魔獣が複数体出現した。そいつらは、俺に目標を定めると一気に襲い掛かってくる。
「今日の晩飯はどうするか。近くの村で何とかするか」
俺は向かってくる魔獣の爪を防御魔法で防ぐ。雨でじっとりと濡れて、気持ち悪くなったため、俺はかぶっていたフードを脱いだ。




