1-96章 感謝してる
「あんたもっと椅子持てないの?男なのに何でそんな貧弱なのよ」
「うるせーな。耳元でピーピー騒ぐなよ、鬱陶しい」
「まあまあ二人とも...」
皆がいるとこまでやってくると、マリンとルークが何やら言い争いをしていた。案の定、ペティーがその仲裁を行っている。
「二人とも痴話喧嘩か?ずいぶん仲がいいな」
「は?そんなわけないでしょ!?」
「お、サトルかちょうどいいところに来た」
ルークは手に持った数脚の椅子をマリンにぐいと押し付けた。
「あんた何しれっとあたしに押し付けてるのよ!?」
「ガジャさん。少しこいつと話をしたいので、ここ抜けてもいいですか?」
「ああ、片付けもそろそろ終わるころだし、抜けても大丈夫じゃろ」
「だから、無視してんじゃないわよ!?」
後ろでルークに怒鳴っているマリンに「私も手伝うから」となだめるペティーの声を背に、俺たちはその場を後にした。
俺たちは魔法交流会の熱気が届かない場所まで移動する。日中の温かさが消え、肌にしみる寒さが体中に伝わってくる。
「お前にはお礼が言いたかったんだ」
唐突にルークはそう切り出した。ルークは前を向いたまま俺に話しかけており、こちらから表情をうかがうことができない。
「お礼?」
俺はルークの話の真意がいまいち読み取れず、そう聞き返す。
「俺に魔法の原点を思い出させてくれたことだ」
ルークはその場で立ち止まると、俺のほうに振り返る。日はあと30分もすれば完全に沈みそうなほどの時間になり、ルークの顔が辛うじて見ることができる。
「俺はずっと、自分の魔法の楽しさを共有することができなくて、その怒りを周りにぶちまけていた。でも、この世ではみんな大切なものが違って、俺はそれを頑なに認めることができなかった」
ルークや俺のように魔法が好きな奴もいれば、ライアーのように自分の立場を大切にするやつもいれば、ペティーのように友達を大切にする人もいる。それぞれの好きなことをリスペクトし、それでも他人と折り合いをつけるのはそう簡単じゃない。
「俺の魔法は独りよがりだった。でも、さっきマリンやペティー、ガジャさんと魔法の話をしたけど、いろいろな話を聞けてめちゃくちゃ楽しかった。あんなに魔法の話をするのは親父以外いなかったから」
確かにあの環境では、リックに魔法の話を聞くのが一番手っ取り早いから、頼りっきりになるのは無理もないだろう。
「そう。魔法っていうのはいかに自分のイメージを現実に投影できるかがカギになる。だから、いろんな人と魔法の話をすることでいろいろな魔法のアプローチができて、日々勉強させられるんだ。俺もまだまだ勉強途中だし」
技術で劣る俺は、イメージを具体的に持つことでほかの魔法師との差別化を行っている。基本的な魔力量は一朝一夕で増やせるものではないから、現状はこのように戦うしか方法がないのだが。
「お前と、お前らと出会えて本当に良かった。」
「ああ、俺もお前みたいな魔法師としてのすげーやつを見つけられてうれしく思っている」
俺は目の前に手を差し出してルークと握手を交わした。
「今年のバルセルクの入学試験受けるんだろ?お互いがんばろーぜ」
「ああ、お前と一緒に入学できるの楽しみしてる。今度会うときは入学試験のときだ。その時までまたな」
ルークはそのまま手を振りながら、暗闇の森の中に姿を消していった。この数か月で魔法師としての皮を破ったルークがどこまで成長するのか、その成長曲線を頭の中で描くと、自分ももっと頑張らなきゃと、心の中で己を奮い立たせた。




