1-94章 魔法交流会その34
「本当に申し訳なかった!」
リックは自分の頭を90度にさげると、自分の息子であるルークの頭も後頭部をおさえて下げさせていた。顔をあげたルークの顔を見ると、父親譲りの綺麗な顔に真っ赤に腫れた赤い跡があった。
「いえいえ、俺も何が何だかわからない状況でして」
「サトル君、自覚を持ってもらうために少し怖い言葉で言わせてもらうと、君はもうちょっと遅かったらそのまま窒息死させられていたほどの危険な状態だったんだ」
「...マジですか」
死、という言葉を普段はまじめで温厚なリックの口からそういわれると、俺は本当に危険な状態にあったらしい。あの喉が焼けるような痛みはそれが起因しているのだろう。
「原因は、あの時ルークに首を触られたときですか?」
半ば確信を持った言い方で俺はリックとルークの二人に尋ねた。
「ほら、お前からしっかりサトル君に弁明しなさい」
リックは息子の背中を叩くと、ずっとうつむいていたルークがゆっくりと顔をあげる。彼の表情は本当に見ているこっちもつらくなりそうなほど落ち込んでいた。
「...お前が言ったように俺のギフト「蠍梢斑」は、触れた相手を猛毒状態にするものだ。だから、普段魔物とかには使うけど、人には決して使うな、って親父に言われてたんだ。でも...」
ルークは俺にグッと顔を近づけ、何かを言おうとしたがそのまま顔を引っ込めた。
「あの時の俺は、無性にお前が許せなかった」
ルークは自分に触れたその手を震えながら見つめている。
「お前と同じで、魔法が好きで、俺も魔法に情熱を注いでいた。それなのに、俺の周りにそれを認めてくれる人はいなくて、お前の周りには理解者がたくさんいた。俺は何となくやるせなかったよ。お前だけなんで、そんなに恵まれてるんだって、だからあの時、俺はお前に無意識に「蠍梢斑」を使っちまった。本当にすまない...」
彼はもう一度自分の頭で深々と俺に対して謝った。俺はそんなルークに顔をあげるように言う。
「謝ることじゃないよ。誰だって自分の努力は認められたいと思うものだよ」
努力とそれに対する評価は見る人がいて初めて成立するものだ。どんなにすごい才能や能力を持っている人でも、それを見つける人がいないといくら努力しても水の泡になる。努力を誰にも見られないで苦しむやるせなさは俺には痛いほどわかった。
「だからって、あんたのやったことが正当化されるわけじゃないでしょ」
「マリン...」
マリンは強い口調でルークに詰め寄る。マリンは俺に危険が及んだことを自分のことのように心配してくれた。いつものマリの態度からは想像できないような対応だが、俺はマリンが自分のために心配してくれることに少しホッとした。
「リックさんが言うには、あんたのギフトでサトルのことを殺しかけたんでしょ!?リックさんとペティーがいなかったらあのまま死んでたかもしれないじゃない!」
「...言い訳はしない」
ルークは何とかマリンにそういうと、マリンもこれ以上にルークを責め立てることはできなかった。
「まあ、なんだかんだリックさんとペティーのおかげで俺も助かったことだし、一件落着じゃないか」
「あんたってホント能天気ね...」
呆れたようにマリンは自分の両肩をすくめた。殺されかけたことだし、一時の迷いでそのような選択肢を取ったのは愚かな行為だったけれど、ルークの憔悴しきった様子を見ると、そんなことどうでもいいと俺は感じてしまった。
「あ、そうだルーク」
「...なんだ」
やや気後れした様子でルークは顔をあげる。俺は自分の右手を前に出す。ルークは困惑したように俺の顔と手を交互に見る。
「俺と、俺たちと友達になろうぜ」
「...は?」
俺の言葉に驚いたのはルークだけではなかった。真っ先にマリンが俺の肩をつかんでグワングワンと揺らす。
「あんた、馬鹿を超えて正気を疑うレベルだわ!こいつと友達になるなんて脳みそ壊されでもしたの!?」
「いや、ルークと友達になりたいと思った理由は単純だよ」
俺はマリンの両手を引きはがしてルークのほうに振り返る。ルークもまた驚愕した表情で俺のことを見ている。
「俺は、お前の努力で勝ち取った魔法が好きだ。だから、お前の魔法を間近で見たい」
俺は自分が感じた思いを素直にルークにぶつけた。この時、ルークの笑った表情を初めて見た気がした。
「...呆れた。お前は俺が思っていた以上の魔法バカだ」
その言葉は俺にとって少し心外な言葉だったが、ルークはがっちりと俺の手をつかんでくれた。こうして魔法交流会は無事(?)閉幕を迎えることができた。




