1-91章 光る火花
まだあたりの日が上がりきっていない薄明の時間に目を覚ます。俺は手に持った土でできた水筒にいれた水をちびちびと飲みながら、ゆっくりと意識を現実へと戻す。
「よし、そろそろ行くか」
俺は自分の体を木を支えにして立ち上がると、鬱蒼と生い茂る森の中をスタスタと歩き始めた。明朝に吹き渡る心地よい温度の風が俺の体に染み渡った。
俺は魔法書を家で読まないとき以外は、日が昇り沈むまで、遠くまで足を運んでは魔獣がよく出没する森に足を運んではひたすらそれを狩り続けていた。魔獣に関する本も親父がバルセルクの出身なこともあって、多少だがあり、自分のレベルに見合った魔獣を選んではそいつらと戦い、着実に自分牙を磨いていった。俺がギフトを自覚したのは、親父と喧嘩をしてから1年たたないくらいの時である。
その日も相も変わらず、低級魔獣を狙ってはひたすら狩りを行っていた。俺はそいつを見つけると、目の前で対峙し、戦闘の構えを作る。その時、上空からものすごい勢いでデカい翼をもった魔獣が目の前にいた低級魔獣を食いちぎった。俺は声も出せず、でも、逃げることもできずにただ尻もちをついて後ずさることしかできなかった。
「...キュウウウウウ!!!!」
けたたましい音で俺に音速で近づく鳥型の魔獣に俺は手も足も出なかった。なけなしの防御魔法でなんとかしのいでいたが、じきに魔力切れで食い殺されるのは時間の問題だった。俺もここまでか、その時はそう思った。しかし、
「...!!」
瞬間、頭の中で火花が散るような感覚が俺の中で起こる。俺は反射的に魔獣の背後に回ると鳥の体に触れる。魔獣がゆっくりと俺に振り向き、俺に対してくちばしで攻撃をしてこようとしてがもう間に合わなかった。魔獣は悶えながらバタバタと羽をばたつかせながら、ビクビクと痙攣をおこして、やがて動かなくなった。
「なんだ...今の...」
俺は今の一連の動きが何が何だかさっぱりで気味が悪くなり、その自分の数倍ほどもある鳥型の死体を放置したままその場を去った。自分のようで自分ではない、そんな感覚が俺の中に渦巻いていた。
「お前、鳥型の魔獣と戦ったろ。あいつは獲物を探すために独特のにおいを発するからな」
どういうわけか居間には親父が帰宅したのか、キッチンで料理を作っていた。そういえば今日は母さんが帰るの遅くなるとかそんなこと言ってた気がする。
「あれはたしか準2級から2級相当の魔獣のはずだ。いやそれよりも...」
親父は俺の顔、もとい俺の目をいぶかしげに見ながら、キッチンにある火を止める。
「その目のタトゥーは何だ?それはギフトか?」
「なんだよ。ギフトって...」
俺はわけもわからず親父に質問を質問で返す。ギフトなんて言葉は今初めて聞いたし、この目のあたりが異様に痛む原因がその"ギフト"にあるなら、早くどうにかしてほしかった。
「まあいい。それよりルーク。ちょっと話があるんだがいいか?」
親父があの時以来、自分から俺に話をしてくることはほとんどなかったから、話しかけてきたことは意外だった。俺は控えめにだが、首を縦に振る。
「お前は私が赴任しているバルセルク魔法学校は知っているだろ」
もちろん、俺はその存在を知っていた。魔法を専門にする大陸全土の治安を取り締まる警察兼教育施設として確立されているバルセルク魔法学校。俺はその校風に惹かれ、なんとなくそこに行きたかったから、独学で魔獣を狩って、日々魔法の練習と研鑽を行っていた。
「そこに入るために俺がお前を指南してやる、と言ったらその話を受けるか?」
親父がそういったのは何も珍しいことではないと思った。親父はバルセルク魔法学校で教員として仕事をしており、魔法の技術に関しては一流だ。そんな親父に魔法を教えてもらえるのはバルセルクに入るための一番の近道になるかもしれない。しかし、
「...」
なんとなく過去の確執が邪魔をして、素直にうなづくわけにはいかなかった。なんとなく、今となってみれば、親父があの時俺に言った言葉は、間違ってはいなかったと思う。しかし、あの時散々親父に強い言葉を言ってしまった手前、変なプライドが親父の返事に素直に返事することを邪魔した。
「どうした?嫌ならいやとはっきり言え」
親父に強くそう詰められる。だがやはり、親父に魔法の稽古をつけてもらえば、バルセルク魔法学校に入学するという俺の夢はぐっと近づくことは間違いなかった。
「わかった。親父、俺に稽古をつけてくれ」
俺は自分のプライドなんかより、自分の将来の夢のために親父に頭を下げた。親父は「そうか」とだけ言うと、キッチンに戻り再び料理の続きを始めた。この時から親父と俺の地獄の魔法の稽古が始まった。




