1-8章 魔法師
「ただいまー」
俺はやっとの思いでアンの家に帰宅した。行きでさえ歩いてかなりの距離があったのに、帰りは特訓でかなりの体力を使ったのでへとへとだった。俺は玄関で倒れそうになった。そこに、柔らかい感触が俺の頭を包み込む。
「おかえり。ずいぶんと遅かったわね」
アンが上から優しく声をかける。顔を上げるとアンの顔が間近にあり、赤面したのが自分の体の温度で分かる。俺は慌ててアンの胸元から飛び出し、
「い,,,いや,,,大丈夫だよ。俺風呂入ってくるね」
駆け足でその場を離れて俺はふろ場に向かう。風呂に入りながら今日で会ったおじさんであるガジャのことについて考える。彼は、とても優秀な魔法使いではあるのは一目見ればわかるのだが、俺は果たしてあれほどの魔法を人生で使うことができるのだろうか。この村での生活はまだまだ短いが、あれほど上手く、正確に、そして大胆に魔法を使っている人は見たことがない。せいぜい俺が村で見たことある魔法は、持つのが大変そうな箱を引きずって動かしていたり、キッチンで火を魔法でつけるとかそんなものだ。
「謎多い人物ではあるんだよなー」
特に、合計で200kgほどありそうなタイコンの塊を持ち上げるだけならともかく、同時に土から引っ張り上げて、リアカーに乗せるなんてそれをいとも簡単にイメージして実行できるのは、今の俺にはどだい無理な話であった。
「アンにガジャのことについて聞いてみよう」
そう思い立ち、俺は風呂から上がり、キッチンに向かう。リビングでは料理がすでに並べられており、いつでも食べ始められるような準備がされてあった。
「サトル。ご飯できたわよ。さ、食べましょ」
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俺はタイミングを見計らって、ガジャについてをアンに聞いてみた。
「ガジャのおじさんってどんな人なの?」
「そうねぇ...私たちもあの人とはそんなに長い付き合いじゃないの。彼は2年くらい前に私たちの村に現れて魔法についていろいろ教えてくれたの。簡単な魔法でも使うのは難しいから私たちの村で魔法を使える人なんてほとんどいなかったから、とても助かったのを今でも覚えているわ。」
アンは懐かしむように、ガジャが訪れたであろう過去を振り返る。
「後になってここに来た理由を知ったんだけど、この村にはあなたみたいにたびたび身元不明の子供が現れるから、その面倒を見るためと子供に魔法を教えて、将来いい思いをさせてやりたいっていうのがあったらしいわよ。ああ見えて根はやさしい人なのよ」
ガジャがそんな思いでこの村に来たとは知らなかった。堅物でワンチャン村からの嫌われ者としてあんな辺境に住んでいるのかと思ったけれど、村人からの信用を見るにどうやらそういうわけではなさそうだった。そして、アンの会話で気になったことを俺は聞いてみる。
「魔法に関する職業ってどんなものがあるの?」
「魔法を実践でも使う職業と言ったら、国防軍、警察魔導部隊、錬金術師、冒険者、魔法の研究員,,,有名なのはそんなところかしら」
俺は、最後に言われたその言葉に食いつく。
「研究員...」
無論、この世界での研究と言えば魔法に関するものだろう。前職のことも相まって、俺は将来なんとなくだが魔法を研究するであろう研究員を目指そうと心の中で決めた。
「明日もガジャさんのところに行くの?」
アンが考え事をしている俺に声をかけてくる。返す言葉にもはや迷う余地はなかった。
「俺頑張るよ。ガジャさんのもとでいっぱい魔法を特訓して村一番の魔法使いになるよ」
そういって俺はアンの作った料理を急いで平らげてアンの部屋で床に就いた。魔法に関する勉強をしたかったが、あいにく今日は特訓で疲れたので泥のように眠りについた。