1-87章 魔法交流会その31
時は、マリックが始まる少し前までさかのぼる。目的の人物であるリックはテントで次の競技の打ち合わせをしていた。
「リックさん、少しお話いいですか?」
「ん?ああ、サトル君か。すまない。少しだけ待ってくれるかな」
リックは一言そういうと5分ほどほかのスタッフと話をした後、俺のもとに来た。
「待たせてしまって申し訳ない。それで何か御用かな?」
「ちょっとあるものについて聞きたいことがありまして」
リックは心当たりなどあるわけもなく首をかしげたが、俺は彼の後ろに置かれている数台の魔力人形を指さす。
「あれって普段はどんなことに使われているんですか?今回の会のために特注したわけではないですよね?」
「ああ、魔力人形のことかい?もちろん、本当の用途は別にあるよ。バルセルクで使っている魔力人形をいくつか借りてきたんだけど...」
彼は木箱の上に並べられた魔力人形を一つ手に取ると、丁寧に説明をしてくれた。
「この魔力人形は主にバルセルクの魔法師の偵察や戦闘時に使われることが多いんだ。大きく分けて用途は二つある。一つは、散開して周辺捜査をした際の魔力探知の目印にするためだ。大まかに何がいるかの魔力探知はできるんだけど、特定の誰かを魔力探知だけで見つけるのはとても難しい。しかし、この魔力人形は一定の周期で魔力が放出しているから集合の目印としてとてもちょうどいいんだ」
リックの言う通り、この魔力人形は一定周期で魔力を放出しているから一瞬魔力探知するだけで、容易に魔力人形の位置を特定することができる。バルセルクにいる魔法師ならこの程度の魔力探知は造作もないだろう。
「それで、もう一つというのは...」
「もう一つの使い方は、実演して見せるからちょっと見てて。危ないかもしれないから僕の後ろに来て」
言われたとおりに俺はリックの後ろに控える。果たしてリックは何をするのだろうか。「じゃあいくよ」とリックが声をかけ、彼は微弱な攻撃魔法を魔力人形に放つ。すると、魔力人形はその魔法をあらゆる方向に乱反射させた。しかし、もともと威力の弱い魔法だったので大した被害は出なかった。
「リックさん、これって...」
「そう。魔力人形のもう一つの使い方は、魔力人形の耐久限界まで魔力を反射するというものだ。魔法師のパーティーには前線がいないところも多いから、魔力人形をおいて魔力を反射しながら戦闘を行うことも多いんだ。これに命を救われた魔法師の数は少なくないはずだよ」
彼は地面に置かれた魔力人形を拾い上げてニッコリと笑った。魔力探知の目印と魔力を反射させるという特性。俺が勝つためにこれはいかせる情報だ。
「ありがとうございます。とても勉強になりました」
「いやいやこれくらいお安い御用だよ。でも、サトル君は勉強熱心だね。その調子ならバルセルクでもやっていけるよ」
「いや、まだ入ると決まったわけではないですけどね...」
俺はリックの賞賛に苦笑いを浮かべる。俺は魔法力のなさを知識や経験でカバーしているだけで、魔法師としてはペティーやマリン、ルークに遠く及ばない。小手先だけで勝負するしかない自分が情けなかった。
「魔法師としての自分はまだまだですよ」
「そんなに自分を低く見る必要はないよ。ここにいる子たちはみな優秀だ。魔力を上手に使える子が多い。正直、試験内容にもよるが、みんなバルセルクに受かるだけの素質があると思っているよ。それに、」
リックは自身の整った眉をゆがませて、遠い空を見上げる。
「魔法師として大事なのは、チームとしての力だ。一部の例外を除いて、個人で倒せる敵なんてたかが知れている。チームとして強敵に勝つことが魔保師として最も重要なことだよ」
彼のその晴れない表情は、自分の過ちを悔いて、一番言いたい人にそれをいうことができなかった後悔がにじみ出ていた。
「あ、それともう一つリックさんに聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「ん?何かな?」
「もし、決勝でルーク君と戦うことになったら」
俺は自分の言うことの恐ろしさを理解し、それでもリックに伝えたいと思っていることを口に出す。
「俺はたぶん手加減をすることができません。だから俺は彼を殺す気で勝ちに行きます」
「殺す気で、か...うん。別にそれで構わないよ」
何かきつい言葉を返されると思っていたが、自分の言葉が肯定されたことに俺自身が驚かされる。
「君が悪い気を起こしてしまうかもしれないが、そこら辺の奴にやられるほど僕はあいつをやわに育ててはないよ。ぜひ決勝で戦うことになったら、全力であいつと戦ってあげてほしい」
俺はその言葉に強くうなずき返すと、リックも俺に薄く微笑を返してくれた。




