1-81章 魔法交流会その25
「はい、これで大丈夫」
ペティーはトンプの前身にかけた治癒魔法を解くと、自分の体を見まわす。
「治癒魔法をこの歳で使えるなんて、やっぱりすごいな」
「そんなことないよ」
感心したトンプの言葉に、ペティーは照れながら頬をかいた。しかし、体の傷は治っても心に負った傷は深いのか、彼の体は小刻みに震えていた。
「俺とほとんど年が変わらないのに、さすがに舐めてた。ムカつくやつだが実力は確か見たいだ」
俺たちが自分に話を聞きたがっているのを自然と察したのか、聞かれる前にトンプは答えた。彼は自分の握りしめた右手を左手で強く握りしめる。
「それに俺の魔力が切れたところをなぶり殺しなんて、いい性格してるぜ、あいつ」
彼は俺たちがトンプの不可解な行動に気づいてないと思ってるのか、普段よりも陽気にふるまう。
「それよりも...」
しかし、俺は彼には悪いが、あの時の彼の行動に疑問を持ち、思い切って彼に聞いてみる。
「ライアーが見せた炎。あれにかなり怯えてたよな。お前、火が怖いのか?」
「サトル君」
ペティーが何かを察したのか、俺のことを必死に止めようと、俺の服の袖をぐっと引っ張る。俺は今まで見たことないペティーの強引さに少し面食らった。しかし、トンプは「いや大丈夫だ」と言い、ペティーの行動を制止する。
「別に隠すようなことでもないし、お前はここに来たばっかで俺の過去のこと知らなかったよな」
「でも...」
「いや、いいんだ。そんなに面白い話でもないし、話半分にでも聞いてくれ」
トンプはそう前置きすると、自分の過去のことをゆっくりと語ってくれた。
「ペティーとかは知ってると思うけど、俺は実はこの村の人間じゃないんだ」
初っ端の告白にもかなり驚いたが、俺は口をつぐんで話の先を促す。
「俺の村は今から1年半くらい前に魔物に襲われた。俺は偶然お袋に山菜を取ってきてくれと頼まれて山のほうまで行ってきたんだが、村についたら、村中が火の手に包まれていて、その時は、何とか誰か助けられないかって必死だったよ」
トンプは足元に落ちていた石を拾い上げると、右手で真上に放り投げる。
「物陰に隠れて様子をうかがおうとしたら、黒いローブにフードをかぶった男が数匹の体の大きい魔獣と部下みたいのを引き連れて村から出てきた。俺は息をすることすら忘れて、必死にそいつらのことを見てたよ」
彼は放り投げた石を取り損ねると、残念そうに石の方を眺めた。
「見るからに普通の奴じゃないってわかった。ローブの奴は部下みたいなやつに一言二言話をすると、部下はさっとどこかに消えていった。俺はタイミングを見計らって村に入ろうとしたんだ。でも、」
彼は自分の肩を左手で抑えると、落ち着かせるように一息ついた。
「物音は立ててないはずなのに、俺の方を見てニヤッと嗤ったんだ。不幸中の幸いは、フードで目元は隠れていたことだったな。でも、燃え盛る俺の村をバックに、物陰に隠れる俺を見て嗤うそいつを見たあの時から...」
ふう、ともう一回深呼吸すると、彼はぐっと背伸びをする。
「俺ははじかれたようにあいつと反対側に逃げた。あの時は殺されると思って必死に逃げたけど、あいつは俺のことは追ってこなかった。そして、数日水も食料もなしに歩いて、やっとたどり着いたのがウィットネスだった。村を見つけたら、急に安心して倒れたとこまでは覚えているが、目が覚めたら村長のうちで寝かされていた」
「その時に、私も少しトンプ君の介抱を手伝ったの」
ペティーは少し嬉しそうにトンプの話を補足する。
「まあそんなところだ。あんま面白い話ではなかっただろ」
トンプはおどけたようにみせ、自分の話を締めくくった。こんな過去を持っていたら、ウィットネスで彼がひねくれた性格になるのも無理はないだろう。
「俺から聞いたことだけど、なんか申し訳ないな」
「いいっていいって。それより俺もお前とこんなに仲良く話せると思ってなかったわ。つまんない話聞いてくれてさんきゅな」
彼の悲惨な過去について深堀してしまったが、彼が顔だけでも笑顔を作ってくれたことがせめてもの救いだった。




