1-79章 魔法交流会その23
もろもろの騒ぎが終わり、トンプとライアーの対戦カードは、この後すぐに行われることが決定した。本来行われるはずだった二人もこのことは了承済みである。また、突然のライアーの来訪で、観客からは、
「あそこの領主の息子なんて、顔すら見たくないわ」
「散々あたしたちを普段のけ者にしてるくせに、自分がその立場になったら急に腹を立てるなんてねぇ...」
通りかかった主婦たちの会話に聞き耳を立てると、やはりあの家の評判はそれほど良くないらしい。俺たちが受けた態度を普段からルーラルの人に見せているなら、不満を買っているのも致しかたないだろう。
「さしずめ、この世界の縮図なのかもしれないな」
俺はこの世界における魔法やギフトの存在意義を考える。魔法やギフトはこの世界では絶対のものであり、使えるものは偉くて、使えないものは虐げられる、そんな感じなのだろう。俺が高校や中学の入学試験を受けた時も、さぞ学歴社会がひどかった。学校では、自分たちより偏差値の低い学校の悪口や、成績の悪い生徒の悪口なんて日常茶飯事だった。こういった差別は、どの世界でも起こってしまうものなのかもしれない。でも、
「俺にはそれを変えられるだけの力はない...」
もし、俺が他人を凌駕するほどの魔法を使えたら、もし、他人を魅了するほどのギフトを持っていたら世界を変えられるのだろうか。俺はほぼ無意識にペティーの横顔を覗き込む。
「な、何かな?」
ペティーは一瞬で俺の視線に気づいたのか、笑顔で話しかけてくる。俺は、「ううん、何でもないよ」といって、再び前を向いて歩きだす。
時々考える。何で俺は元の世界に戻りたいのか。ここではペティーやマリンと言った友達や、アンやガジャ、リックと言った頼りがいのある大人とも会って充実した生活を送ることができている。そしたら、もういっそ、この世界で生涯を終えたっていいんじゃないか。ふとした瞬間に俺は考える。
「...」
でも、心のどこかで俺とは違う俺が、「お前はこの世界にいてはいけない」と警鐘を鳴らしている。元居た世界では、くだらないことの知識や経験は、すっと思い出すことができるのだが、肝心な自分の名前や、死ぬ直前の記憶をどうしても思い出すことができない。「自分は何者なのか」、それを知るためには、俺はどうしても元居た世界に戻らないといけない、という焦りが沸沸とわいてくる。
「サトル」
「おわ!?」
急に現実に引き戻されるような衝撃を浴びて、俺は顔をあげる。前にはあきれた表情のマリンが仁王立ちして立っていた。
「あんた何ボーっとしてるのよ。前見て歩かないと危ないじゃない」
ご指摘はもっともで、俺は悔しいが反論することなどできなかった。俺はまとまった思考を頭の隅に追いやると、マリンの顔を見る。
「顔の傷、大丈夫かよ」
「ん、別に平気よ。止血するほど血も出てないし、絆創膏も張ってもらったから」
トントンと自分の頬を指さし、可愛いピンク色の絆創膏が張ってあることを見せる。
「へえ、可愛いじゃん」
「は?あんたぶっ殺すわよ」
ちょっとした皮肉のつもりでからかってみたが、思わぬ地雷を踏んでしまい、俺は、「冗談だよ」と返しておいた。しかし、俺はどういうわけか、マリンに尻を何度も蹴られた。女心というのはわからないものである。
「二人とも、トンプ君の試合見に行くんじゃないの?」
俺たちの他愛もない言い合いをいさめて、ペティーは俺たちの首根っこをつかんで、引きずりながら歩き出す。ペティーの膨れた顔は珍しくも、少し可愛かった。




