1-7章 努力と才能
「ハァ...ハァ...」
夕刻まであと一時間というところまで時間は過ぎようとしていた。現実世界での時間間隔と大差ないため、朝九時ごろから特訓を始めたと考えると、少なくとも4時間ほどはキャベツを浮かせようと努力している。そして、俺はここまで、一度もそれに成功していなかった。
「...」
魔法を使うことが憧れであった身としては、これほど使うのが難しいのか、それとも自分には才能がないのか、どちらにしても魔法に関してのマイナスイメージがついてしまったことは否めない。
その間にガジャは1時間もかからないで畑の大根をすべて収穫し、土を均しては大根を村まで運び終えたらしい。大根を運び終わった彼の顔には、汗一つもついていなかった。それが終わると彼は椅子に座りながら黙って俺の訓練を見ているようだった。時々俺は、
「イメージというのはどんな風なものをイメージしていますか?」
「魔法初心者でイメージ以外に大事な要素はありますか?」
魔法に関して様々な疑問を彼にぶつけてみたが、彼の言うことは決まって、
「一個でもそれを上げて見ろ。話はそれからだ」
といって、頑なに疑問に対する答えを示してくれない。本当に魔法の指南役として彼は大丈夫なのだろうか、と不満を心の中で漏らす。
「いやいや、そんなこと思っても世間は俺を助けてくれない」
心の中で己を奮い立たせ、弱い心に鞭を打つ。自分の無力を人のせいにする悪い癖がいまだに抜けきっていないことに嫌気がさすも、俺はあることを思いつく。自分がいた世界とこの世界にあるものでイメージの違いがあるのではないか、と俺は考えていた。俺はあの日の記憶を回想する。思いついた疑問をぶつけるべく、ガジャのもとに向かう。日没まであと30分ほどといったところだった。
「あのー、一つ聞きたいことがあるんですけど、」
「なんじゃ。一つでもそれを持ち上げるまで話は聞かんといったはずじゃが」
「そのことについてなんですけど」
俺は、一呼吸おいて彼の目を見据え質問する。俺は自分の持っているキャベツ、否、"これ"を指さし、
「"これ"、名前はなんていうんですか?」
彼は、読んでいる本から目を離し、片目だけつむると、
「そんなことも知らないほど世間知らずなのか、それは"キャベッチ"と呼ばれる野菜じゃ。買うたことぐらいあるやろ」
呆れたように彼は眉間にしわを寄せる。なるほどやっぱりか、と思い、俺は手に持った"キャベッチ"を浮かせるイメージを自分の中で構築する。そして、自分の中で何かをつかんだことが体で理解できたその時、
「オヮ!?」
突然自分の両手にあった"キャベッチ"が宙に浮き始めた。ガジャのほうを見ると、驚いてはいなかったが、じっとこちらのほうを見ていた。やった、ついに浮いた!と集中が途切れた瞬間、キャベッチが地面に落ちた。
「くそ!!」
気を抜いた体たらくでキャベッチを落としてしまった。5秒持ち上げろ、という指示だったが間違いなく5秒も持ち上げることはできなかった。ちょうど日も沈んだところでどうやら今日はタイムアップらしい。悔しいが、今日の俺の食料調達は失敗に終わったらしい。しかし、ガジャが俺の方に向かって歩いてくる。そして、地面に落ちたキャベッチを拾い、俺に渡してくる。戸惑っている俺を見て彼はこういった。
「とりあえず今日は合格だ。明日も俺のところへ来い。いままでいろんな子供に魔法を教えてきたがお前ほど才能がなかったものはいない。それでも俺はここまで教えてきた中でお前ほど魔法について熱心に特訓するやつも見たことがない。お前は立派な魔法師になれる。
そう言い残し彼は去っていった。そして自分は確信した。彼のもとで魔法を学び、立派な魔法師になりたいと。魔法についてもっと知りたいという感情が俺の中で唐突に湧き上がってきた。