1-68章 魔法交流会その12
「ボールを数えるのは俺たちでやるのがいいんじゃない?」
俺は魔法交流会にスタッフとして携わっているテントに向かって、リックに声をかける。ほかにもおそらくボランティアとして働いているであろう人たちが次のプログラムのためにせわしなく動いていた。
「俺たちでやる、っていうのはどういうことだい?」
俺の提案にリックは納得していないというより、どのようにやるのかわかっていないようだった。俺はジェスチャーを交えて彼に説明する。
「俺の地元では、こういう玉入れの時はチームの代表がひとつずつ球を投げて数を数えていたんだ。その方が盛り上がるし、面白そうでしょ?」
彼は俺の話にうなずきながら、「なるほど」というと、
「君の地元はなかなか面白いことをやってるんだね。そういう特殊な文化が根付いているのは東方のティザース地方なんだが、そこの出身なのかい?でも、ここから真逆の地方だしな...」
「ま、まあ当たらずも遠からずって感じですね」
いきなりわけわからん地方の名前が出てきたが、もちろん知るはずもなく曖昧な返答をしてしまう。しかしリバースは「まあいいや」と首を振ると、
「君のそのやり方を採用しよう。先生には私から話をしておくよ」
「わかりました」
「じゃあ」というと彼はテントの中へと姿を消してしまったので、俺もチームごとに待機している二人のところへ足を運ぶ。ちょうどペティーとマリンは輪から少し外れてところで二人で雑談をしていた。
「お疲れ様二人とも」
「あ、サトル君!お疲れ様!」
「あんた、一人でこそこそと何やってんのよ」
「こそこそって人聞きが悪いな...」
マリンのいちいち一言多いところは、一緒に住んでいる中でもう慣れてしまった。果たしてこれに慣れていいのかは俺にもわからないが。
「リックさんに、球を数えるときのやり方を交渉してたんだ」
「球を数えるって、あっちの人が数えて発表してくれるんじゃないの?」
そういって、マリンはさっき俺が行ってきたテントのほうを指さした。
「違うよ。球を数えるときは代表の人が一個ずつ球を投げて数を数えるんだよ。知らない?」
俺の言葉に、二人は互いに顔を見合わせた。
「あたしは聞いたことないわね。ペティーは?」
「私もないかな。そもそも玉入れっていう遊びも初めて聞いたしね」
少なくとも日本では、玉入れの時に投げて玉の数を数えるのは暗黙の了解だと思ってはいたが、どうやらそういうわけではないらしい。
「一応、それをやってくれるようにリックさんに頼んだから」
「えー、なんだか面倒くさそうじゃない」
「まあまあマリンちゃん。それでも面白そうじゃない?」
「ペティーはあんなに魔法を使った後なのに、何でそんなにピンピンしてるのよ...」
と俺はペティーが先ほどまで使っていた浮かせる魔法についての賞賛の言葉をかけ忘れていたことに気づく。
「そうだペティー。さっきの人を浮かせる魔法。とてもすごかったよ。遠くで見てただけだったけど、とてもみんな楽しそうだったよ」
「その話はさっき終わったわよ」
「ふふ、でもありがとう。もとはと言えばサトル君が提案してくれたことなんだけどね」
そう言ってペティーは、俺のことを見上げる形で顔を上にあげる。俺は彼女の顔が急に近づいてきたように感じ、気持ちのけぞってしまったが、ペティーは気づいていない。
「サトル君にまた助けられちゃたね」
「助けたつもりはないよ。ペティーの選択が良い結果を生み出したんだ。俺は何もしてないよ」
「ううん。それでも私はサトル君に感謝してる。ありがとうね」
ペティーのまぶしい笑顔を、俺は恥ずかしくて直視することができなかった。それを見てマリンははあ、とため息をつくと、
「あんた、ほんっとヘタレね...」
と苦言を漏らした。今度ばかりは俺もその言葉に、悔しいが返す言葉がなかった。




