1-63章 魔法交流会その7
「くそ、なんて速さなの」
あたしはもうすぐ30秒ほど経過するだろうというところで、サトルたちのあまりに効率のいい玉入れに目を奪われている。片方で球を浮かせて、もうひとりがそれを動かすというのは、シンプルだがとても魔法初心者にもやりやすい。魔法の初心者が最初に躓くのは、魔力の並行処理だ。移動しながら攻撃をしたり、防御魔法を矢継ぎ早に展開するのは簡単ではない。ましては、上級魔法師でもよく使う考え方である。それゆえに、魔法初心者がまず習得すべきは一つの魔法を極めることだ。できるようになればまた一つ、それができればまた一つとできることを増やしていくのが魔法上達の基本だ。
「それをわかってああいう風な作戦をとってきたわけね」
サトルのやりそうなことだ、と私は苦笑した。あいつは良くも悪くもガジャの影響を強く受けている。それゆえか、彼の教えをしっかりと守り、あたしたちに教えるときもそれを実践している。あたしは、ある日の3人の魔法特訓の日を思い出す---
「マリン、攻撃からの移動がまだスムーズじゃないよ。もう少し足を少すぐに浮かせて、退却できるようなイメージを作らないと」
「いやいや、あたしはあたしのやり方でやるから別にいいわよ」
あたしは、遠くにある缶にめがけて魔法を放ち、退却するような練習をしていた。サトルは何やら同じような動きをひたすらに続けていた。
「マリンは、きっと天才型の人間なんだよ...」
「は?どいうこと?」
「魔法に限らず、物事を習得するにはまず、基礎が重要なんだよ。何度も何度も同じことを繰り返して、寝ててもその動きができるようにするんだ。マリンにはまだそれができてない」
「は?寝ててもって、寝てたらそもそも動けないじゃない」
「そういうことじゃないよ...まあいいや...」
俺ちょっと走ってくるよ、といってサトルはどこかへ行ってしまった。天才型の人間っていったいどういうことなの?
「マリンちゃん。またサトル君と喧嘩?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどね」
あたしは、今の一連のやりとりをペティーに話す。ペティーは私の話を聞き終えると、うーん、自分の頬をさすっていた。
「私も、マリンちゃんと同じでなんとなく感覚で魔法を使っちゃうから、サトル君の言ってることは少し難しいって思っちゃう」
それでもね、と言うと、ペティーはサトルの走り去っていった方を見つめる。
「初めて会った時からサトル君のことをずっと見てきたけど、サトル君は、お父さんとあってからは、ずっと魔法の練習をしてるの。今日みたいにできないことは、1日中でも何回も何回も繰り返す。そのたびに言ってたの。俺には才能がないから、できないことは繰り返して覚えるしかないんだって」
それを聞いて、あたしもああなるほど、と思ってしまった。サトルは部屋にいるときは大抵、アンの部屋からとってきた魔法書をひたすらに読んでいた。こいつ、家に帰ってまで魔法のこと考えてんのか?とその時は心底呆れてさえいた。でも、
「あいつは、自分が思っているほど魔法の才能がないわけじゃないよ」
「え?」
あたしの言葉に不意を突かれ、ペティーがあっけにとられたようにこちらを見る。
「本当に才能のないやつは、できない時点で魔法をあきらめる。でも、できないことを才能のせいにして逃げる奴はいつまでたってもできるようににはならない。才能っていうのは結局人々が都合をつけて逃げれるように作った言い訳だ」
だから、とあたしは立ち上がって汗だくになりながら走ってくるサトルの方を見る。
「あいつのやり方には従わないけど、あいつのことは認めている」
「ふふ、マリンちゃんって素直じゃないんだから」
「ん?何かあったの?」
サトルは、困惑したように首をかしげながら私が渡した水を受け取って、豪快に一口飲んだ。




