1-54章 女子会
「あら、あなたがペティ―ちゃん?いらっしゃーい!」
「お邪魔します。アンさん。今日はよろしくお願いします」
ぺこりとお辞儀をしたペティーはマリンと一緒に家の中に入っていき、俺もそのあとに続いた。同じ屋根の下に女の子が3人...
「う...」
俺は、空腹と先が思いやられる思いで胃が痛くなるのを感じながら手を洗って、用意してあった夕食を前に席に着く。
「いただきます」
「...」
俺とマリンとアンはそれぞれ、手を合わせるとそう挨拶をする。ただ、ペティーだけがそれについていけずボーっとそれを眺めていた。
「これはサトルが生まれたところでこういう風な挨拶があったんだって」
「え!?そうなのサトル君?」
「え!?ま、まあ、そうなんだ...」
「あはは...」と愛想笑いをしていると、テーブルの下から誰かから脛蹴りをされた。口には出さない痛みを与えた人物をにらみつけると、相手はペティーのほうに、すっと顔を向ける。「もっとアピールしなさいよ」と言いたげな顔をスルーし、俺はペティーのほうに話しかける。
「ペティーは、普段マリンとどんなことをしてるの?」
魔法の練習がない日も二人でよく遊びに行くので、二人が普段どんなことをしてるのか気になった。
「マリンちゃんとはいろんなことをしてるかな。お裁縫とか家の手伝いをしてもらったり、1日中お話して終わることもあるよ。マリンちゃんは好奇心旺盛だから、私が知らないこといろいろ経験させてもらってるの」
「まあ、大抵はペティーのほうが上手にできちゃうんだけどね。ホント器用よね。うらやましいわ」
「最初だけだよ。私が教えてあげたら大体いつもマリンちゃんもうまくできちゃうもん」
「でもでも、一緒にぬいぐるみ作ろうってなった時は大変だったわね。私があの時...」
マリンが話始めると、女子3人による男が決して割って入れないようなマシンガントークが続き、俺は静かに目の前においてある夕食をパクパクと食べていた。
"やっぱり話し手になるのは苦手だ"
俺は3人が楽しく会話しているのを傍目に、3人の話を話半分で聞いていた。
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俺は、夕食や風呂を済ませると、机に向かい、本棚においてある適当な本をとると、もう一つの本と一緒にそれを読み始めた。最近では魔法の練習であまり時間が取れていないが、アンから言葉の勉強をしたい、と言ったので何冊か本を貸してもらった。右に早見表を置いて、左に本を置くことで効率的に本を読んでいく。今回読む本は、この世界における魔法の基礎的な考え方についての本だった。
「...はは...」
隣の部屋からペティーとマリンの笑い声が聞こえてくる。今日は二人は同じ部屋で寝るみたいで、二人とも寝るまでさんざん雑談をするつもりなのだろう。この家は壁が薄いため、聞き耳を立てなくても、話声がある程度聞こえてくる。
「そ...で...ティーは...が...き...なの...」
壁から少し距離があるため、どんな内容の話をしているかは聞こえてこない。
「え...そ...と...い...いよ...」
俺は、二人の話が決して興味のあるものではなかったが、今日は勉強に集中出来ないため、本を閉じると椅子をマリンたちが話している壁際まで持ってくる。話声はさっきよりはよく聞こえるようになった。
「かく...いでい...わよ...んと...れなの...あた...におし...よ...」
ふむふむ、どうやら女子会名物好きな男子の話題についてだろう、と俺は心の中で名推理。静かに相手が答えるのを待つ。
「...わた...が...きな...とは...」
俺は、その答えを聞くべく壁に耳をこすりあてる。神様、仏様、女神様、どうか俺に安心という名の救済を!そんなこと考えているがいつまでたっても壁の奥で声は聞こえない。何かあったのか、と首をかしげていると、バン!と勢いよく扉が開かれる。そこにはマリンが壁のそばで聞き耳を立てている俺を軽蔑した目で見ていた。
「ち、違う。勘違いしないでくれ。俺は夜風にあたるために壁際に椅子を置いていただけなんだ。」
「...まあ、いいわよ。好きにしなさい。意気地なし」
それだけ言うとマリンは俺の部屋を出ていこうとする。「ちょっと待った」と言って俺はマリンを引き留める。
「どうして俺の行動に気が付いたんだ」
と俺がマリンに言うと、マリンはフッと、嘲笑するように笑うと、
「ただの女の勘よ」
とそれだけ言うと今度こそ俺の部屋から出て行った。俺はただ茫然としながら、壁際から離れるとそのままベッドに入って横になった。今頃マリンはペティーにこの話をしているのだろうか。ペティーにまで軽蔑されるような目を向けられたなら、俺は明日から生きていけない。俺はただ現実から逃げるように早めに眠りについた。




