1-53章 宣戦布告
「トンプ、あたしたちに何か用?」
目の前に立つ村長の息子、トンプはふんと鼻息をならす。こいつの名前もマリンは知ってるのか。俺は本当に無知なことが多いと改めて思い知らされる。
「お前ら、魔法交流会で教師役をするらしいな。父さんとおまえの親父の話から盗み聞きした感じだと」
「それが何なのよ。あんたには関係あるの」
トンプは、ペティーのほうに視線を向けて、マリンは片目をつむって、腕を組み、「それがどうした?」と言わんばかりの態度をとっている。
「...気に食わないんだよ。お前の親父みたいに優秀な人がいたら、俺は魔法をもっと楽に覚えられただろうに」
トンプは両手のこぶしをぎゅっと握りしめて、うつむいた。
「楽に、って何よ。別にガジャに教わったからって楽になるわけじゃないんだけど。それに、そんなに教わりたいならあんたから頭下げればよかったじゃない。それに、普段から悪さしてるあんたらじゃガジャに魔法なんて教えてもらえないか」
「黙れ!!」
トンプの大声に広場で談笑していた人たちが一斉に俺たちのほうに注目する。マリンとトンプはお互いいがみ合ったまま、その場に立っている。
「どうした。今の大声は」
群衆の中から、二人の男が俺たちのほうに向かってくる。村長とガジャだった。二人は騒ぎの元凶が俺たちであることを確認すると、
「こらトンプ!!お前はまた人様に迷惑かけたのか!」
「親父にはどうだっていいだろ」
そういって、俺たちや村長から逃げるように背を向けて走って行ってしまった。しばらくその背中を眺めていると、
「一体何があったんじゃ?」
今度はガジャが俺たちに向かって聞いてくる。
「あいつと少し言い争いしただけよ。あいつがガジャに魔法を教わりたいとかなんとか」
「ああ、そういうことだったんですか」
村長は何か心当たりがあるのか、少しばかり思案すると、
「この度は本当に申し訳ない。あの子もまだ今より小さかったころ、色々あってですね。人より魔法への執着があるんです。どうか許してやってください」
村長がペコペコと頭を下げるので、俺たちは「顔をあげてください」と言って村長をたしなめた。唯一マリンだけがバツの悪そうな顔をしていた。
「あんま騒ぎを起こすなよ。魔法交流会の前なんじゃから」
ガジャから軽い叱責を受けると、マリンだけがふてくされたようにそっぽを向く。
「マリン。お前に言っとるんじゃぞ」
「わかってるわよ...」
明らかに納得していないようだったが。ガジャもとりあえずこれ以上に追及をしてこなかった。ガジャはもう一度村長に謝ってくると言って広場を離れていった。
「あー、むしゃくしゃするわねー」
「まあ、さっきのはどっちもどっちだったよ」
俺が何とかマリンをなだめようと声をかけると、「そうだ!」といって、ペティーの肩をガシッとつかむ。ペティーは、「ど、どうしたのマリンちゃん?」と目を丸くしている。
「明日は魔法交流会をここでやるんだし、今日は私の家に泊まっていかない?今日の愚痴をペティーにも聞いてもらいたいし!」
「え!?」
「...え?」
素直に驚いたペティーに対して、俺の方は完全にあっけにとられていた。
「本当に泊まるのか?」
「何?なんか文句あるの?」
「いえ、ありません...」
「ペティーもそれでいいわよね?」
マリンはこうなるの意地でも自分の意見を曲げようとしないことはわかっていた。ペティーはしばらく頭を悩ませていたが、
「うん、わかった。お父さんにも話をしてくるね」
そういって、さっきガジャが言った方向に歩き出した。俺たちはその背中が見えなくなるまでペティーを見送ると、
「さあ、そしたら帰って夕飯の準備をしましょ!サトル、あんたも早く来なさい」
そういうとマリンは一目散に駆けだしていった。マリンの感情はいつもジェットコースターのように上下が激しく、怒っててもすぐ上機嫌になることは日常茶飯事だった。
「それよりも...」
一人取り残された俺は、これから起きることを想像するとますます胃が痛くなるような思いだった。




