1-52章 儚夢
「わあー、なんだかとても豪華ね」
魔法交流会を前日に控えたこの日、俺たちは町に降りてくると、所々に装飾の施された村の様子に舌を巻いていた。なんとなく準備が進んでいるんだなーと思ってはいたが、前日で準備も大詰めを迎えるとこんなにも村がきらびやかになるとは思ってもいなかった。村の家のあちこちには魔法交流会の張り紙が張り付けてあり、今が冬なこともあってか、クリスマスツリーのような装飾も飾ってあり、屋根伝いには手作りで作られているのだろうか、三角のタペストリーがあちこちに並んでいた。
「ほんと、素敵な村ね」
ペティーはあまり村に降りたことがないので、見違えるほどきれいになった村にひたすら感嘆していた。ペティーはマリンと一緒に、「ねえ、あの装飾とかとっても可愛いわ!」と珍しくテンション高めに話していた。
「あらサトルちゃん。今日はお友達と一緒なのね」
「うわ、おっさん」
「こら。おっさんなんて失礼じゃない」
あの時にも出会ったおかまのおっさんが俺に話しかけてきた。今日は厚着の上着を着ていて、とても暖かそうだった。
「ロッキンさんこんばんは。今日は上裸じゃないのね」
「あらマリンちゃんもこんばんは。そっちの子はお友達?」
「はい、ペティーと申します。初めまして」
「あらかわいい子。あたしもドキドキしてきちゃった」
ロッキンと呼ばれたおっさんは二人にいつも通りのテンションであいさつをする。というか何でマリンはこのおっさんの名前を知ってるんだ?俺の知らぬ間にマリンはこの村の人たちと仲良くなってるんだろうか?
「ちょっと、サトルちゃん、こっちこっち」
「な、なんですか」
ロッキンがこっちに手招きしているので慌てて駆け寄ると、俺にこっそりと耳打ちしてくる。
「それで、あの二人のどっちのほうが好きなのよ」
「!?な、なに言ってんすか!?」
俺は慌てふためいて、ロッキンの口に思いっきり手を当てて口をふさぐ。幸いにもマリンとペティーには聞かれていないようだった。
「あんたこそ何言ってんのよ。あの二人どっちもかわいい子じゃない。それに強気な女の子とおしとやかな女の子。サトルちゃんはどっちが好みなのよ?」
「そ、それは...」
俺はロッキンから目をそらすように、遠くから二人の様子を眺める。話の内容がは聞こえないが、マリンが自慢気に何か言うと、ペティーはそれを聞いて口元を隠しながら上品に笑っていた。二人とも俺にとって大切な友達だ。そんな二人のどっちが好きかなんて...
「お、俺は...」
「サトルー何してんの。早くしないと置いてくわよー」
遠くでマリンが俺を呼ぶ声が聞こえる。
「ま、マリンが俺のことを読んでるので、今日はここで...」
「あら、しょうがないわね。それじゃあ答えの続きはまた今度聞かせてね」
そういって俺の肩を叩くと、群衆の中に姿を消していった。
「ロッキンさんと何を話してたの?」
「な、何でもないよ。それより早くガジャさんと合流しようよ」
「そうだね。お父さんもここら辺にいるはずだから」
何とかさっきの話題からそれたことに胸をなでおろすと、俺たち3人は横一列に並んで歩きだした。魔法交流会を前日に控えているので、ガジャに簡単に明日の流れを聞こうと村まで下りてきたのを今の今まで忘れていた。
「広場の方に行けば会えるかな」
「そうだね。それにしてもおなかすいたわ」
「そうだな、俺も腹減った」
空腹を腹をさすってごまかしながら歩いていると、後ろから「おい」と声をかけられる。
「...お前はたしか...」
声をかけてきたのは、あの時俺を散々ボコボコにしてきた村長の息子が一人で仁王立ちしていた。




