1-4章 神様っているの?
少し早足で今に向かうと、今の俺にとっては少し背が高い椅子と机の上に食事が置かれていた。アンが言ってたカレー、じゃなくてカレイは現代で言うカレーそのものだった。なんかカレーとカレイがごっちゃになって意味わかんなくなってきた。少し苦労して席について、アンも俺の向かい側に座る。
「いただきます」
挨拶をしてカレイを食べ始める。作り立てなのかカレイからは湯気が立ち登っていて、とてもおいしそうだった。
「何?その言葉?なんかのおまじない?」
「ううん。食べる時はいただきますって挨拶してから食べ始めるんだよ」
日本では当たり前の文化も他の国では当たり前でないことなんてザラだし、ましてや世界が違えばこんなこともあるのだろう。
「どこでそんな言葉覚えたの?」
不意のアンの言葉で貴重なこの世界での初めての食事を盛大に吹き出す。「大丈夫?」とアンが心配しているが、完全に失念していた。いくらアンとはいえ、「実は俺異世界から来ましたぜ」って言ったってもちろん信じてもらえるはずはない。
「あ…いや…その…はぐれる前の両親が…言ってた言葉を…真似しただけだよ…」
いや、さすがに苦しすぎだろ!はぐれる前の両親って誰だよ!両親はおろか、友達さえこの世界にいないし、この村では同世代の子供はそんなにいなそうだったし、これから先、しばらくぼっちとなると先が思いやられる。
「そうなのね。まだ小さいのに礼儀がちゃんとしているから。お母さんとお父さんはしっかりした人だったのね」
「へへへ...」
アンの言葉に何とかやり過ごしたと胸をなでおろす。それからは、アンとこの村のことについてや、俺が親とはぐれる前の話(作り話)について話した。アンにはほとんど嘘の話をしてしまったのは気が引けるが、状況が状況だったので心の中で謝っておく。その後、アンが作ったカレイはおいしくいただき、あっという間に食べ終わった。
「ごちそうさまでした」
夕食を食べ終わったので、挨拶をする。それを見て今度はアンが俺の真似をして、「ごちそうさまでした」と挨拶をする。一人とはいえ、だれかと食事をするのは久しぶりで、俺はひそかにアンに見えないところで泣きそうになっていた。
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アンが洗い物を済ませたのを見計らって俺は声をかける。
「ねえアン。俺アンの部屋にあった本読みたい」
「あら。私の部屋に入ったの?何か読みたい本あった?」
素直に文字が読めないと言ってもよかったのだが、なんとなく俺はアンに本を読んでほしかった。
「アンが選んだ本読みたい」
「わかったわ。ちょっと待っててね」
残りの洗い物を済ませると、アンは俺の手を引いて奥にあった自分の自室に向かう。俺の手を引くアンの手は女性とはいえ大人の手であるため、なんとなく俺は不思議な感覚が付きまとう。アンの部屋の前まで来ると、
「一応、サトルの部屋もあるんだけど、しばらく私の部屋で寝る?」
「うん!!」
まだ小さいこともあって、一緒の部屋で寝ようとアンは提案してくる。問題なかったのでもちろんOKだ。問題ないので。誤解されないように2回言ったぞ。扉を開けて本棚のところに行くと、
「どの本が読みたい?」
と聞かれる。俺は、
「アンの一番好きな本で」
と要望を伝える。「そうね~」とアンがどのにしようかと頭を抱えている。しばらくしてアンは一冊の本を手に取る。
「この本にしましょ」
「なんて本なの?」
「『かみさまがつくったせかい』っていう絵本よ。この世界ではかなり有名な絵本なんだけど...」
アンが選んだのはこの世界にいる神様についての絵本だった。ファンタジーのお約束みたいなものだな。ファンタジーは神様が実際にいそうなものだがいるならぜひ会ってみたいものだ。
「こっちで読みましょ」
アンはベッドのほうを指さす。変な背徳感で背中に嫌な汗をかくが、気にせずベッドに行く。アンは俺を膝の上にのせて、俺に読み聞かせるように物語を読み始める。
『かみさまがつくったせかい』
「はるかむかし、このせかいをつくったかみさまがいました」
「かみさまは、そのぜんちぜんのうのちからで、せかいをつくりあげました」
「かみさまは、ふびょうどうがきらいで、いきるものすべてにまほうをさずけました」
「かみさまは、みずからのこどもをせかいにはなって、こどもにげかいのとうちをまかせました」
「こうして、かみさまのでんせつはせかいにひろめられることになりましたとさ」
「めでたし、めでたし」
話の内容はこれで終わりだった。正直にいってもう終わり?って感じだった。ほかにもこれが本当の話なのかも疑問の余地があった。
「どう?面白かった?この国に住んでいる人はみんなこの本が好きなのよ」
「うん、おもしろかった」
本当の子供だったら神のスケールのでかさで楽しめたと思ったけど、三十路手前のおっさんじゃ「何言ってんだこいつ」って感じになってしまうのは許してほしい。それとは別に、俺は何か頭の中に引っ掛かるものを感じたがそれが何かどうしてもわからない。"違和感"という感覚が頭の中を支配し、こべりついて離れなかった。