1-47章 救いはあるのか
そして、あっという間に約束の日は訪れた。俺は特に何をするでもなく、リビングと自分の部屋を往復する毎日をしていた。リビングで毎日顔を合わせるマリンには心配な顔をされたが、彼女は特に何か声をかけるわけでもなく、朝食を済ませると毎日のように外に出かけた。十中八九ペティーのところに遊びに行っていたのだろう。俺は何となく、後悔と恥ずかしさでペティーのところに行くことができず、1日中部屋でぼーっとしていた。ローランが来る約束の日の前日の夜に、マリンから、「明日はちゃんと来なさいよ」と扉越しに言われたのは記憶に新しい。
俺はクローゼットにいつもしまっている黒い上着を引っ張り出すと、鏡の前に立ち手櫛で何となく自分の髪を整える。
「よし、行くか」
俺は両手をポケットに突っ込みながら、寒さで冷え切っているドアノブを下ろす。廊下に出ると偶然にもマリンも一緒に部屋を出てきた。
「あ」
二人して間抜けな声を出すと、それを隠すように、マリンは先に歩き出す。「先行くわね」とだけ言うとマリンは足早に玄関へと向かう。おそらく俺と一緒に歩いているのをなるべく近所の人に見られたくないのだろう。俺のことを好き避けしているのか、それともシンプルに嫌われているのか、そんなことは言うまでもないことだ。
ガジャの家につくと先に今にガジャとマリンが座って待っていた。ガジャは正座をし、マリンは足を崩して二人はならんで座っていた。見た限りだとペティーの姿はなかった。
「まだローランさんは来てないの?」
「もうすぐ来るじゃろ。ワシの横に座っておれ」
そう言われ、俺はガジャの隣に静かに腰を下ろした。数分もたたないうちに、玄関の扉が2回コンコンとノックされる。
「俺です。ルーラル村のローランです。」
玄関から居間まで響く声でローランは言った。ガジャは腰を上げると、扉を開けて玄関まで歩いていく。
「ペティーはいないの?」
「上にいるわ。とりあえず会わせない方がいいというガジャさんの判断よ」
俺の方を見ずにマリンは言うと、それ以降は俺も黙って机の上を眺めていた。しばらくするとぞろぞろと人が居間に押し寄せてきた。
「先日はどうも、ローランです」
先日見た見た目とほとんど変わらない身なりでローランは挨拶をする。マリンはその場で立ちあがり、「こんにちは」とお辞儀をしたので、俺も慌てて立ち上がり、マリンを真似て頭を下げた。ローランの後に入ってきた男は、ローランの知り合いとは思えないほど田舎臭さがない、さわやかな美丈夫だった。緑のセーターの下には白のタートルネックを着ているのか、首元がとても暖かそうだった。黒のトレンチコートは前側がボタンで留められず開けられていて、左手の中指にはキラキラと輝く指輪がはめられていた。
「こんにちは。サトル君とマリンちゃんだね。初めまして」
男は優雅に俺たちの前で一礼する。俺たちに向けられた屈託のない笑みはまさに出来る男、という印象を受ける。
「バルセルク魔法学校で教師をしている、リック・リバースと申します。今日はよろしく」
胸に左手を当てて自己紹介をする男、リック・リバースはさわやかにほほ笑んだ。




