1-3章 終点
アンに買い物を頼まれ、そこでいろいろ聞き込みをしてわかったことがいくつかある。といっても、そのほとんどはこの村に関することだ。
まず、このウィットネスは俺のような突然降ってわいたような子供が時々いるようで、その奇妙な現象からウィットネスは一般的にその名前で呼ばれることはなく、"誕生の里"と呼ばれているらしい。また、村に隣接するようにある森は地元の人しか知らず、どういうわけか、"終点"と呼ばれているらしい。ちなみに聞いた限りでは、この名前の由来は誰も知らないらしい。
「はい、これ。重いから落とさないようにね」
「ご心配ありがとうございます」
地図に書かれた青果屋に行き、俺とアンの二人分の食料を受け取る。村なこともあって、こういった新鮮な野菜は都会では味わえなかったから今から楽しみだ。リンゴやミカンなどに似た果物があったが、いかんせん文字が読めないため、どう読んでいいかわからなかった。
余談だが、途中であったキャラの強い筋骨隆々な男から聞いた話によると、この世界では物や人を数字でくくるのが好きならしい。現世でいう三国志とか、世界三大珍味みたいなあれのことである。
お使いを済ませて、アンの家に戻る。
「ただいまー」
「おかえりなさい。ずいぶんと早かったのね」
台所のような場所で何やら料理をしていいるようだった。台所からはおいしそうなカレーのようなにおいが俺の鼻の中をくすぐる。
「今日の夕飯はカレー?」
「ううん。違うわよ。今日の夕飯はカレイよ」
カレイ?カレイって魚のことじゃないの?なんとなく語感が似ているからそんな気にすることでもないのかもしれないけど、なんかややこしいな。慣れるのに苦労しそう。
「夕飯ができるまで遊んでていいわよ」
そういわれた俺はアンの家を物色しつつ、ひまつぶしになるものを探す。いや、けっしてやましいことはしないと約束しよう。いい年した大人がこじらせて散々世間様にご迷惑かけているところをみてきたからな。
玄関近くは、トイレや風呂といった共有スペースしかなく特に目ぼしいものは見つけられなかった。さらに奥に進むと何部屋か個室のような部屋があった。手始めに一番手前の扉を開けると、そこはどうやらアンの部屋だったようだ。
「ごくり...」
女子の部屋に初めて入ったので緊張したが、アンの部屋は俺が想像するような、ザ・女子部屋といった感じではなく、ベッドや時計、本棚、机といった必要最低限なものしかない簡素な下手だった。わかりやすく言うと、ドラ〇もんに出てくる〇〇太君の部屋の押し入れないバージョンみたいな感じだった。
「ゲームやテレビの一つ、さすがにあるわけないか」
女子の部屋なので、エロ本などは期待してなかったのだが、ゲームやテレビの電化製品は全くと言っていいほどなかった。
「仕方ないが本棚にある適当な本を読んで時間をつぶすか」
そういって本棚にある本の題名をざっと読む。毎日、資料や論文とにらめっこしていた俺からすればこの程度の本を読むのは朝飯前だった。えっと、どれどれ...ん?
「あーそうだ。この世界の文字まだ読めないんだった」
あんだけ息巻いておいて、俺の読める本は一冊もなかった。難しい英語の論文も難なく読んできたが、そもそも読める文字でないため、現世での語学力は使い物にならないことが分かった。
「仕方ない。寝る前にアンに何か読んでもらおう」
しかし、本を読むのは現世でも好きだったので内容は気になる。どんなものか今から気になってしょうがない。
「サトル、ご飯できたわよー」
遠くからアンが俺を呼ぶ声が聞こえる。いい感じに時間が潰せたし、アンの料理も気になる。飯うまだったら俺ってめっちゃ幸せ者だな。