1- 37章 夢語り
「ごめん、遅くなったー」
俺は息を切らしながら、ガジャの家にたどり着く。家の前ではガジャとペティーとマリンの3人がすでにそろっていた。
「遅いわよ。何やってたのよ」
「ちょっと近所の人と話し込んでてて...」
「何よそれ」
怪しい、と言わんばかりの目で睨まれたが、俺はその目を気づかないように受け流す。顔に出てるとしたらそれを見られたくないからだ。
「よし、ちょうどサトルも来たし、あの話をするか」
ガジャがポンと手を叩き、俺たちの視線を集める。ガジャから改まって話というのはいったい何なのだろうか?
しかし、マリンはいきなり俺たちの前に飛び出すと、ガジャの前に立つ。
「なんじゃマリン。なんかあったか?」
「あのー、ちょっとガジャさんに折入って話があるの。ちょっと中で話さない?」
「なんじゃ話って」
明らかに挙動不審なマリンの態度にガジャも当然首をかしげる。「いいからいいから」と半ば強引にガジャの背中を押して家の中に押し込む。ガジャを家の中に入れると、マリンは俺たちのほうに振り向いた。
「5分よ。5分で戻ってくるわ」
手をパーに広げてマリンはそれだけ言うと家の中に入っていった。当然だが家の前にはペティーと俺の二人だけが取り残された。二人の間に微妙な沈黙が流れる。
「マリンちゃんお父さんになんの話があるんだろうね」
「さ、さあ。とりあえず外で待ってようか」
俺はガジャの家の近くにあるベンチを指さすと二人でそこに座った。ベンチの幅はとても狭く、子供の俺たち二人が並んで座ってギリギリ手が触れ合うか否かぐらいのスペースしかない。どうやって話を切り出すか迷っていると、ペティーのほうから話しかけてくる。
「サトル君。バルセルク魔法学校に行くの?」
ペティーの質問はド直球で、逃げることを逃がさないほどの真剣さがこもっていた。俺はペティーから目を背け、たっぷりと10秒ほどどのように返答するかを頭の中で組み立てる。この瞬間にもペティーは俺のことをじっと見つめているのだと肌で感じることができる。俺はペティーのほうを見ると、ペティーは少しだけ顎を引いた。
「俺の中ではまだ決めかねてるんだ。バルセルク魔法学校に行くか、ここでペティーたちと一緒に暮らしていくか」
俺はゆっくりと息を吸い、自分の言いたいことを頭の中で整理する。チリチリと頭の中では火花が散っている。
「俺は自分の可能性、やりたいことのためにバルセルク魔法学校に行きたい。それで数年間ペティーと離れ離れになっても」
「...」
ペティーは何も言い返さず、ただ静かに俺の話を聞いていた。
「でも、すぐに俺はここに帰ってくるよ。それで今度こそ、マリンはどうかわからないけど、俺は必ずここに帰ってくる。約束する。それまでペティーを一人きりにしちゃうかもしれない。それでも俺やマリンがペティーのことを大切に思っていないわけじゃないってことをわかってほしい」
言っててなんて薄情な男だと俺は思う。結局は自分のやりたいこと、好奇心のために俺はペティーと別れる決断をした。嫌われても仕方ない。そんな覚悟で俺は思いを打ち明けた。
俺が黙ているのを見届けると、ペティーは静かに口を開いた。
「サトル君ならそう言ってくれると思ってた」
ペティーはそういうと俺の手を両手で包み込んだ。ペティーの目は涙でにじんでいた。
「バルセルク魔法学校への入学は私が最初に持った夢で、最初に敗れた夢なの。だから、私の代わりにサトル君やマリンちゃんが入学してくれたら私もとてもうれしい。そんなお友達がいるなんて私にはもったいないことだと思うから」
俺はゆるゆると首を振る。俺こそペティーは俺が最初にできたこの世界の同世代の友達だから、気軽に話せる友達としてとても大切に思っている。
「だから、私のためにも絶対入学してね。もし落ちちゃったら私が慰めてあげるから」
ペティーが軽口を言うと俺たちは二人で笑いあった。俺は右目から出た汗を右手で乱暴にふいた。




