1-36章 上裸で愛を叫ぶ男
俺は、ペティーのことやギフトのことで頭を悩ませていたせいか、よく眠れないまま朝を迎えてしまった。ボーっとしたまま隣のベッドで寝ているはずのマリンのほうを見たら、マリンの姿はすでにそこにはなかった。おそらく先にガジャのところにいているのだろう。俺のことを起こしてくれてもよかったのに。俺はさっさと支度を済ませると、アンのところに行く。
「何かすぐ食べられるものある?」
「すぐ食べられるもの?ちょっと待って」
アンは台所からリンゴのようなものをとってきて、俺に渡そうと手を伸ばす。俺はそれを受取ろうとするとアンはその手を引っ込める。俺は、困惑したように眉を顰めると、
「サトル、大丈夫?顔色悪いみたいだけど」
寝不足のせいで、はたから見ても俺の顔色は悪いように見えているらしい。あまり考えないようにしていたのだが、自分が思っているよりも深刻に考えているのかもしれない。
「何かあったら私にいつでも相談してね」
「大丈夫だよ...じゃあ俺もう行くね」
俺はアンからリンゴを受け取ると重い足取りで、玄関に向かい家を出た。
俺は、考え事をするときつい下を向いてしまう癖が向かいからあった。それは下を向いて余計な情報を自分に与えなくして脳をよりクリアにしようと思っているのかもしれない。無論この癖にも弱点があり、しばしば周りの人間の様子に気づかないことがある。俺は下を向いて歩いていると、後ろから誰かにポンポンと肩を叩かれる。
「うわあ!?」
今の衝撃ですっかり今考えていたことを忘れてしまう。振り向くと変なプロポーションで立っているオカマの男が立っていた。ちょうど、俺がここに初めて来たときに見た人だ。
「どうしたのサトルちゃーん。何か悩み事?」
妙にガタイがいいので、変なプロポーションはかえってボディービル大会みたいになってなにかと様になっている。
「もしかして、コ・イのお悩み?」
男は俺に向かって片目を閉じてウインクをする。俺はそれを苦笑いしながら受け流すと、
「まあ...半分は当たってますかね...」
「あら~サトルちゃんもお年頃なのね♡」
男は両手を握りながら、横に腰をキュッキュッと振る。俺は深くため息をつく。
「どうしたらいいんですかね...」
「そうね~サトルちゃんの相手がどんな女の子かあたしはわかんないけど」
男は俺の目線に合わせて片ひざを折る。彼(彼女?)の顔は普段から見た目を気にしているのか髭などもしっかりそられ、綺麗な顔をしていた。
「あなたがその子のことを好きなら、その子が一番喜んでくれることをしてあげなさい。女の子は男子から好意を示してくれることを何よりも喜ぶのよ。だから、シャキッとしなさい」
ガシッと俺はその分厚い両手で肩をつかまれる。俺は少し驚いて目を大きくする。それに気づいてか男は俺に、
「あら、あたしに惚れちゃった?」
と言ってきたが、俺はそれを丁重に断った。そして、俺は勇気をもって前を向くと、
「ありがとうございます。少しだけ悩みが晴れたかもしれません」
男はそのまま立ち上がり、うんうんとうなずくと、「あっ」と何か思い出したかのように俺の耳に手を添えると
「ちなみに何て名前の子なの?あたしに教えてよ」
そういわれたので、俺は飛びのいてぶんぶんと首を横に振ると、
「い、言いません!お、俺もう行きますから。」
俺は男から逃げるようにダッシュで立ち去る。後ろからはドスの利いた声で「頑張ってねー」という茶色い声援が聞こえてきた。
「そういえば、あの人の名前まだ聞いてなかった」
俺は走り去る途中に男の名前を知らないことに気づいた。彼(もう彼でいいか)には散々お世話になったから彼には何かお礼をしたいな、と俺は心の中で思った。




